ベストセラー『がんばらない』の著者で諏訪中央病院名誉院長の鎌田實氏は、チェルノブイリの子供たちへの医療支援などに取り組むとともに、震災後は被災地をサポートする活動を行っている。以下は、96回目となるチェルノブイリ訪問を終えた鎌田氏の報告だ。
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チェルノブイリに行ってきた。僕は、1991年1月から通い始め、医師団を送るのは、今回で通算96回目になる。
チェルノブイリ原発事故当時、現地では、放射能を防ぐには、1にウオッカ、2にバーニャ(蒸し風呂)、3に女、と言われていた。まったくもって根拠がないのだが、見えない放射能に怯え、不安の中で虚無的になったり、刹那的になった結果なのだろう。後の2つは、ロンガイだが、ウオッカは今も信じている人が多く、アルコール依存症患者が増えた原因ではないかと思っている。
今回、ベラルーシ共和国の首都ミンスクで、チェルノブイリ非常事態省の副大臣、ウラジミール・チェルニコフ氏と会うことができた。副大臣は、原発事故の対策として大事なことは3つあるという。【1】法律、【2】「復興のための推進委員会」の一本化、【3】教育、である。
3番目の教育に関してはとても興味深い。お年寄りは、見えない放射能に関しては、なかなか理解しづらいようだ。そこで子どもたちを教育して、子どもたちから両親へ、そして、おじいちゃんやおばあちゃんへと広めようと努力したという。
まずは、汚染地域の19の小学校に食品の放射線量や空間線量を測れる機械を設置した。“放射能の見える化”を推進したのである。子どもたちは自分の家の庭で採れたものを学校に持ってきて、測ることを通して、どうしたら内部被ばくを防げるかを学んでいった。まさに実践教育だ。
僕らは、ミンスクの情報センターも訪ねた。そこには、子どもたちの絵や作文があった。絵や作文から、子どもたちが放射能に対して、どのように受け止めているかを情報収集しているという。
そこで配布していたパンフレットには、より安全に食事をとるために「洗うこと、むくこと、ゆでること」が、どれだけ大事かが書かれていた。
キノコが大好きな国民性を反映して、キノコの細かい注意もあった。キノコを4種類に分け、放射能が危険なキノコとそうではないキノコが明示されていた。
住民自身が不安に思うときには、放射線量を測れる場所も設けられている。もちろん市場に出るものは、すべて放射線量は測定済み。コルホーズや食品会社など、組織から出る食品の放射線の管理も徹底している。セシウムは年間10万サンプル、ストロンチウムは8500サンプルを調べ、食品工場からは年間5000件が持ち込まれるが、規制値を超えたものは、たった1例だったという。
※週刊ポスト2012年3月30日号