東日本大震災から1年が経ったが、震災後、津波や地震を思い起こさせるとしてテレビやラジオ、ライブなどで自粛されている曲がある。『北の漁場』(北島三郎)、『兄弟船』(鳥羽一郎)、『みちのくひとり旅』(山本譲二)などが歌詞の内容から、いまも“解禁”されていない。その中のひとつ、サザンオールスターズの『TSUNAMI』について、桑田佳祐(56)は3月10日放送の自身のラジオ番組で、こう語った。
「いつか悲しみの記憶が薄れ、この曲を歌ってくれという声があれば、復興の象徴として歌える日がきたらいいと思っている」
今年になって、音楽番組で同曲が流されたり、被災地でカラオケで歌う人も出てきたとの一部報道もあるが、桑田自身は、震災後はライブで一度も歌っていない。こうした曲の“解禁”については賛否両論の声があるが、音楽評論家の富澤一誠氏は「徐々に解禁されてしかるべきだと思います」と語る。
「当然、歌に罪はなく、『TSUNAMI』も内容的に津波を揶揄しているわけではないですから。阪神・淡路大震災のときにも、内山田洋とクール・ファイブの『そして、神戸』が自粛されたことがありましたが、神戸の人の“歌ってほしい”という声で“解禁”された経緯もあります。『TSUNAMI』は280万枚も売れた名曲ですから、その名曲を封印してしまうのは歌にとってももったいないこと」(富澤氏)
もちろん、津波をイメージさせるということで震災直後に自粛するのはしかるべきであり、津波と聞いただけでも拒否反応を示してしまう被災者がいることも考慮すべきだとも語る富澤氏。では、“解禁”のタイミングは?
「被災地からラジオや有線放送でリクエストが増えてきたら、流してもいいというサインではないでしょうか。あとは被災地でカラオケで歌う人が増えてくる、というのもタイミングのひとつでしょう。カラオケはその曲が好きで歌いたい人が歌うので、それが判断としていちばん正しいかもしれませんね」(富澤氏)
昨年は復興コンサートや復興支援曲が目立ったが、音楽界としては今後、どんな支援を続けていくべきだろうか?
「10年単位で続けないと復興にならないので、例えばコンサートで募金を行うとか、できる範囲で続けることが重要だとアーティストの皆さんは話しています。被災して3、4か月くらいのときには、とにかく衣類や食べ物などライフラインの確保が第一。その後に癒しが欲しい、歌が聴きたいということになっていきます。心を癒すのが歌の役割ですから、被災地はまだほとんど復興していない状況ですが、環境が整っていくにつれて、今年はこれまで以上に歌が必要とされる気がします。
さだまさしと会って話をしたときに“壊された町が復興して、有料のコンサートができるようになるまでは、歌うことをやめられない”といっていました。つまり、“以前のように街が戻り、会場もあって、チケットを買って見に来てくれるお客さんがいて、コンサートを楽しめる…”、そうなるまできっちりと責任を持って、できることをやり続けるという決意だと思います」(富澤氏)