日本にとって切実で重大なエネルギー問題。すべての原発が停止しつつある現在、日本人は原発に頼らない社会を選択するのかどうかを問われ、いわば分岐点に立っている。そんな状況の中で、東京ガスが力を入れて宣伝している「エネファーム」のCMに、作家で五感生活研究所の山下柚実氏は違和を感じるという。以下は、山下氏の問題提起だ。
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「何にもできない私でもガツンと節電できるのね~ 発電 節電 発節電~」
八代亜紀のド演歌が流れるCMをご存じでしょうか。ハスキーボイスで喉を鳴らし、歌い上げる演歌。ガスを使って燃料電池で発電する、東京ガスの「エネファーム」の宣伝です。
CMは、衣装から化粧、振り付けから節回しまで、コテコテの演歌尽くし。息子役の三浦春馬は、演歌を歌う母を脇から手拍子、ヨイショ。キャラクターも舞台設定も、ずいぶんと作り込んでいます。
でも、なにか違和感が残る。ちょっと違うんじゃない?という感じがぬぐえない。CMを見た後、どうにも行き場のない「?」を抱いているのは、私だけでしょうか?
日本にとって今、エネルギーは切実で重大な問題です。すべての原発が停止しつつある現在、私たち日本人は原発に頼らない社会を選択するのか、このまま廃炉にしても暮らしは大丈夫なのかが、鋭く問われています。重大な分岐点に立っている。
そんな状況の中で、東京ガスが力を入れて宣伝している「エネファーム」とは、都市ガスの中にある水素と空気中の酸素を化学反応させて、家で発電するシステム。
発電時の熱をお湯にして使うことも可能。遠くから電気を送る送電ロスも無い。つまり、エネルギー選択に対する、新しい提案の一つなのです。
だから言いたい。CMのような妙なおふざけも、トリッキーでど派手な演出も、笑いを誘う必要性も無いのでは。私たちの社会にとって大事なエネルギーの選択は、おもしろおかしく表現すればいい、という次元の問題ではないはずです。
今も福島には過酷な原発事故によって故郷や仕事を失い、多大な影響を受けて苦しんでいる人たちが大勢いる。原発に代わる代替エネルギーの提案をするCMがこれでは情けない。事故の過酷な影響や切実さが、あまりにも共有できていないのでは。
CMを見た時の直感的な違和感とは、もしかしたら、その「つりあなわさ」「共感の不在」から来ているのかもしれません。
おそらく、これまで東京ガスは「エネファーム」の利点を宣伝しても、なかなか理解してもらえなかった、というトラウマや忸怩たる思いを抱えているのでしょう。実際に、原発事故以前は電力会社が宣伝する「オール電化」に押され気味でした。しかし、だからといって、今おもしろおかしく目立てばいい、ということではないはず。
本気で「エネファーム」の長所や特徴を伝えたいのであれば、その利便性やメッセージを、提案としてきちんと届けるCMの作り方があるのでは?
CMのみならず例えばシンポジウムや対話の場を企画するなど、多角的な情報発信・伝え方を工夫し、消費者に直球で訴えることが大切ではないでしょうか。
エネルギーの選択についてしっかりと向き合い真面目に考えたい、という人は確実に増えている。このCMを見る度に、情報を的確に届ける手段はもっと別にあるはず、と思えてなりません。