本来であれば満面の笑みで、「ニャー!」と雄叫びをあげたかったに違いない。待ちに待ったロンドン五輪の男子マラソン代表決定。それにもかかわらず猫ひろし(34)が緊張した面持ちで会見に臨んだのには理由があった。
「まさか彼が選ばれるとは思わなかった。カンボジア国民すべてとはいわないが、大半がいい気持ちではない。彼は現地に住んでいないし、我々の文化を理解していない。ただ、オリンピック選手になりたいからという理由で国籍を変更して、1人の選手からその座を奪ってしまったのです」
カンボジア最大の英字紙『プノンペン・ポスト』のスポーツ記者はこう憤る。
“その座”を奪われたカンボジアの英雄、ヘム・ブンティンもまた怒り心頭の1人だ。
「ブンティンは我々の取材に『ほんのわずかなタイム差(92秒)で僕に勝った彼が選ばれてしまった。彼はカンボジア人ではあるが、カンボジア人ではない。こういう陸連の決定には不満だ』とはっきり答えています。ブンティンは貧困層からの叩き上げで、国民にとって彼の成功は勇気やドラマに溢れていたんです。それを横から日本人が奪ってしまったように国民には映ったはずです」(同前)
カンボジア国籍取得は、比較的安易といわれるだけに、今後もこうした落下傘選手が続々と現われる可能性がある。
猫は会見で、
「批判している人が間違っているとはいえません。カンボジア人になって、ある意味、自分の人生を芸にしているともいえます。一生懸命走ることがカンボジアの人や協力してくれた人への誠意だし、芸人としての生き方だと思っています」
と神妙に語った。
※週刊ポスト2012年4月13日号