3月30日、消費増税関連法案が衆議院に提出された。この裏では財務省が野田政権を操って悲願の法案提出にこぎつけたとする見方もある。
永田町や霞が関を取材すると、どうも今の政権幹部や大新聞記者だけが、必要以上に「財務省神話」を信奉して、財務省がいうから、“大物次官”といわれる勝栄二郎が「やる」といっているから、と過剰に反応して「増税しかない、必ず上げる」と目を血走らせているように見えるのである。
ところが、「勝天皇」と呼ばれるほどの勝次官の評判は、同省OBたちが集う「大蔵元老院」で急落している。
「若い頃の勝は、あんな馬鹿ではなかったがなァ。増税と経済政策は車の両輪だというのは財務官僚の鉄則なのに、増税だけ先走ってうまくいくはずがない。たぶん法案は潰れるが、そうなれば国際社会で日本の信用はガタ落ちになる。今の財務省には国際感覚も足りない」(主計局畑の元審議官)
「ここまでやれば、法案を出さずに引っ込めることはできなくなってしまった。日銀の協力を得て、インフレターゲットと賃金上昇目標を立てるなど抱き合わせ政策が必要になるが……無理だろうな。増税すれば、その年は増収になっても翌年にガクッと落ちる。東北復興の道筋が整わないなかでの増税は愚の骨頂だ。
まァ、私も外から見ているからそういえるので、霞が関にいると大事なことが見えないのかもしれない」(銀行局畑の元審議官)
これは一部の意見ではない。本誌が取材した大物OBたちは、口々に勝・財務省の暴走に懸念を示した。
今世紀に入って財務省に君臨した元次官2人の意見はこうだ。
「拙速すぎる。増税というのは、叩き台があって、議論があって、調整があってできるものだ。まるで1日で潰れた細川政権の『国民福祉税』のようだ。勝君は功に走っているなら、今からでも勇気ある撤退を決断すべきだ。今はその時期でないことを表明し、2年後くらいに議論を再開する余地を残して身を引くべきだ」
「私の得たニュアンスでは、勝はあそこまで強引に増税する気はなかったと思う。野田さんが勝以上にスイッチが入ってしまっている。
増税の影響は様々なところに出てくるから、じっくり検討する必要がある。増税すればパラダイス、という今の霞が関の雰囲気は、私から見ても異常だ」
かつて大蔵省が「省のなかの省」と称された時代には、確かに国家観や国際感覚を持った大物官僚もいたが、今の財務官僚は本当に小物ばかりになった。その小物ぶりに元老院が心配するのは当然だが、小役人の言葉を神の託宣のように信奉する総理大臣や大新聞記者の姿も憐れである。
※週刊ポスト2012年4月13日号