経営破綻した国内唯一のDRAMメーカー・エルピーダメモリ。すでに国は2009年にエルピーダを産業活力再生特別措置法の支援企業に認定して公的資金300億円を出資しており、経済産業省によると、今回の倒産で最大277億円が国民負担になる可能性があるという。大前研一氏が、その問題点について指摘する。
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ここ2年間のスマホやタブレット端末の普及は予想外の早さだが、DRAMの不振は1999年にエルピーダメモリが誕生した当時からわかっていたことである。なにしろエルピーダは、日立製作所と日本電気(NEC)が、業績のおもわしくないDRAM事業を切り離して設立された会社なのだ。
にもかかわらず、エルピーダはDRAMに固執した。実は坂本社長は、フラッシュメモリー開発者の竹内健氏も指摘しているように、半導体業界では名うてのフラッシュメモリー嫌いとして知られている。坂本社長が業界の構造変化を読み切れず、その結果としてエルピーダが経営破綻した以上、彼は経営メンバーに残ってはいけない。
もしエルピーダが再生できずに消滅したら、どうなるか。DRAMの価格が上がるのは確実だ。おそらくサムスン、ハイニックス、マイクロンの3社はDRAMの価格を上げて、仲良く利益を確保していくだろう。
では、国策としてエルピーダを生き残らせるべきなのか? 私はその必要はないと思う。かつて半導体は「産業のコメ」といわれたが、今やその多くがコモディティ化して重要分野ではなくなっている。
収益の出るPC用CPU(中央処理装置)はインテルやAMDの牙城で、携帯電話用CPUはアメリカのクアルコムが世界シェアの50%を占めている。フラッシュメモリーでさえ後れをとったDRAMひとつ覚えのエルピーダが、マイクロプロセッサー分野で天下のインテルやAMD、クアルコムに太刀打ちできるはずもない。
すでに国は2009年にエルピーダを産業活力再生特別措置法の支援企業に認定して公的資金300億円を出資しており、経済産業省によると、今回の倒産で最大277億円が国民負担になる可能性があるという。
日本からDRAMの灯を消すな、などといって庇護してきた経産省もエルピーダが道を誤った“共犯者”であり、坂本社長とともに責任を取ってもらわねばならない。
要するに、この会社が生き残っても、構造的に大儲けできるようになるわけではなく、大勢に影響はないのである。「日の丸半導体」にこだわって、さらに公的資金を注入するという時代錯誤の愚かな選択だけは絶対にやめてもらいたい。
※週刊ポスト2012年4月13日号