毎年この時期の週刊誌特集記事で恒例なのが、「全国高校ランキング」。母校が東大に何人入ったとか、エリートオヤジの自慢話に花が咲く。イラッとするそんな人にどういう姿勢で臨めばいいのか。大人力コラムニスト・石原壮一郎氏の「ニュースから学ぶ大人力」。今回のテーマは「出身高校の東大合格者数を自慢するヤツに大人のやさしさを示す」です。
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また新年度が始まりました。この時期の週刊誌をにぎわすのが、東大合格者数高校ランキングを初めとする「高校別の難関大学合格状況」の記事です。
そこそこ満ち足りた毎日を送っている社会人にとっては、とくに興味がわく内容ではありません。しかし、中途半端に名門と呼ばれる高校を出た誇りを何歳になっても忘れず、しかも現在の状況や社内的な立場が、持ち前のプライドの高さに追い付いていないタイプにとっては、ひじょうに重要な意味を持ちます。
去年は一桁だった東大合格者数がギリギリ二桁になっていたりすると、もうたいへん。聞いてもいないのに「ウチの高校、今年はがんばったみたいでさあ」と、ちょっとテレ臭そうにその話題を持ち出してきます。極めてどうでもいい話ですが、本人にとっては切実な意味を持っているだけに、大人としてせいいっぱいやさしく対応してあげたいところ。
「今の状況に不満なのはわかるけど、卒業して何十年も経つ高校を引き合いに出してきて自分の値打ちを少しでも上げようとするのは、あまりにも悲しすぎるぞ」
「他人にとっては無意味な過去の栄光に、いつまですがりついているんだ。しかもお前は、東大卒でも何でもないじゃないか(東大卒の人はこの手の話はしません)」
言うまでもなく、こうした本音は絶対に口に出してはいけません。世の中でもっとも残酷な行為は、図星を突くことです。
相手は、遠い遠い後輩たちの実績の威光を借りて「俺のスゴサをもっと認めろ!」と言いたいわけなので、そこをくすぐってあげましょう。その手の自慢をしてきたら、すかさず「やるじゃないか! お前、そんな名門の出身だったのか」と返します。さらに、
「関係ないかもしれないけど、お前のこと、ちょっと見直したよ」
と言ってあげれば、後半の都合のいい部分だけ受け取って、深く満足してくれるはず。
その困った輩が上司や先輩の場合は、「前々から只者じゃないとは思ってましたが、やっぱり違いますね」などと返しておけば、思いっきり舞い上がってくれるでしょう。
客観的には、むしろバカにしているように見えそうです。もちろんそうなんですけど、すっかり有頂天になっている当人は、そんな回りくどい意図には気づきません。「母校の勢いに後押しされて、○○も今年度はいいことがありそうだな」ぐらいの明らかに根拠がないことを言っても、素直に「そうかもしれない」と納得してくれるでしょう。
念入りに喜ばせてあげるのは、やさしい気持ちからだけではありません。人間がいかに単純で愚かで悲しい生き物であるかを目の当たりにして、反面教師にさせてもらうためでもあります。ま、人様のことを表面的にはおだてながら心の中でバカにしている自分だって、お世辞にもご立派な人間とは言えませんが、そこは都合よく目をそらしましょう。