新生活がスタートする春。フレッシュマンなどに向けて各紳士服店などがこぞってスーツの“2着目は半額”などの格安値引きを展開している。なかには“2着目は1000円”といった破格の値引きを行う店も。こういった値引きで、スーツを買うのは本当に得なのか? その驚きのカラクリについて流通ジャーナリストの金子哲雄さんが解説する。
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販売価格2万9800円のスーツの例で説明しますと、一般論ですがお店の仕入れ原価(生地代)は12~13%で約3600円、人件費が35%程で約1万430円、残りがテナント料・光熱・広告宣伝費が約1万2665円で、1着の利益がだいたい3105円程と考えられます。
2着目を仮に半額の1万4900円で売った場合、仕入れ値は変わりませんから3600円程。しかし、2着目は同じ人に売るので、接客もせずにすみ、人件費や広告費などの経費はゼロ。つまり、残りの1万1300円がまるまる利益になります。
紳士服の販売は、対面でつきっきりの接客になるので、小売業の中でも非常に人件費がかかります。しかし、同じ人に2着目を売ることができれば人件費や広告宣伝費などの“追加コスト”がかかりませんので、“2着目は半額”という設定ができるわけです。“2着目は1000円”というのもこれと同じ仕組みです。
スーツってデザインの変化がそれほどないように見えますが、買い替え需要を作るために、意外とデザインがころころ変わるんです。例えば襟のサイズを小さくしたり、シルエットを少し変えたりだとか。ですから、お店としては長期在庫になって古いデザインになったり、色あせや虫食いで商品をロスするよりは、売ってしまうほうがいいのです。
ぼくはいつも5着まとめ買いをします。お店に行って“まとめ買いしたい”というと、値段が格段に安くなることもあります。例えば1着2万9800円のスーツでも、“5着で8万円に収まりますか?”というと、それに収まるように売ってくれます。お店としては“2~5着目”を誰が買うか分からないのに待っているよりも、5着まとめて買う人に売ってしまったほうが“追加コスト”がかからないからです。
いい換えると、消費者にとっては2着目を買ってしまうほうが、“追加コスト”が販売価格に上乗せされていないので得だということです。スーツなど人件費率が高いものは、消費者もその人件費を負担してしまっていますから、1着だけ買うのがいちばん損なんです。
最近は減っていますが、2着目が1円になるサービスもありますが、その仕組みには2つのケースが考えられます。1着目の代金に2着分の値段を付けているケース、2着目はもともと在庫品で捨てるはずのものを1円で売っているケースです。
ただ、最近はそれをやると消費者に仕組みがばれてしまうので、どちらかというと先に紹介した“追加コスト”を抑える、という考え方のほうがいまは主流になっています。1円スーツというのは、消費者にとっても損はないんですが、あくまでも“客寄せパンダ”のようなものなので、あまり欲しい商品がないケースが多いですね。“2着目は半額”ぐらいが、消費者にとって安心できるラインでしょうね。