大学野球ファンにとって、3月下旬に発売される『大学野球』(週刊ベースボール増刊)の東京六大学選手名鑑は毎年の楽しみだ。新年度の各チーム編成がわかるうえ、甲子園で活躍した新入生たちの分布も一目瞭然。それを見ながら春季リーグの行方を展望するのが醍醐味なのだ。
この時期、新入生は厳密には入学前だが、国立大学の東大を除く五大学の野球部は、合格発表を終えた2月下旬から新入生の入部希望者を募る。希望者多数で3月上旬に締め切る大学もあるほどだ。こうして3月下旬発売の雑誌に新年度の名鑑が掲載されるわけだ。
3月26日発売の同誌を手に取って驚いた。慶応義塾大学の選手欄に、女性の名前があるのだ。この名鑑はコーチからマネージャーまで載るのだが、確かに投手の欄である。そこには「川崎彩乃 1年 駒沢学園女子 155センチ 54キロ 右投右打」と書いてある……。
東京六大学リーグの女子選手といえば、明治大学のジョディ・ハーラー投手が先駆け。1995年に東大戦の1試合だけ登板した。その後、東大の竹本恵投手が2001年4月の慶大戦に登板。さらに翌5月の明大戦では小林千紘投手との“女の投げ合い”を演じた。小林投手の登板はこの1試合のみとなった。
川崎投手は駒沢学園女子高では2009年の女子硬式野球選抜大会で準優勝し、最多勝利(2勝)とベストナインに輝いた。2010年の選手権大会の優勝にも貢献している。2011年3月に卒業したが、1浪し今年晴れて合格、入部となったようだ。
さっそく慶応義塾大学に川崎投手の取材を申し込むも、入学前ということもあり取材NG。そこで、彼女の高校1~2年時に特別アドバイザーとして同校を指導した西本聖氏(現ロッテ1軍投手コーチ)に聞いた。
「小柄なので球威はそれほどないですが、カーブの曲がり方に驚かされました。男でもあんなに曲がるカーブは投げられません。シュートの投げ方を指導すると、シンカーまで自分のものにするほど器用な投手でした。上手く緩急を使って打たせて取るタイプですね。調子が悪い時にわざわざ電話をかけてきて調整方法について質問したりと、研究熱心でもありましたよ」
史上4人目の女性投手として強打者たちを打ち取る姿を早く見たいものだ。
※週刊ポスト2012年4月13日号