現在、生活保護受給者は210万人に迫る勢いで増加の一途を辿っている。全国で最も生活保護受給者が多いのは大阪市で、18人に1人が生活保護受給者だ。
この増加傾向はもちろん、昨今の不況の影響はあるだろうが、それだけが問題ではない。まず原因として挙げられるのが、高齢者の増加だ。基礎年金だけでは生活していけない高齢者の受給が年々増え続けているのだ。生活保護を受けている被保護世帯の約半分近い数が高齢者世帯となっている。
そして、もうひとつの要因として挙げられるのが、本来なら「働ける」世代であるはずの20代、30代の若者の受給者が増えている点だ。あるケースワーカーはこう話す。
「派遣労働の拡大や非正規雇用の増大が原因ですが、若い世代の人たちのなかに、生活保護への抵抗感が薄れていることがいちばん大きいのかもしれません。昔は生活保護を受けずに頑張りたいという気持ちがあったものですが、いまは当然の権利として主張する人が増えていますから」
若者の間では、生活保護はネット上で「ナマポ(生保)」と呼ばれ、どうすれば申請が通るかなどの情報交換が当たり前のように行われている。
彼らが生活保護を受けたがるのには、実は理由がある。それは、生活保護受給者には、数々の“特典”があるからだ。生活保護受給者の相談に乗ったり、援助するケースワーカーを10年以上務め、著書に『野たれ死にするくらいならどんどん生活保護』を持つ多村寿理さんは、こう説明する。
「生活保護受給中は、原則として医療費や介護費、家賃(地域ごとに上限あり。最大5万3700円)は無料。さらにNHKの受信料、住民税、国民年金なども免除されます。またJRの運賃や光熱水費の減額もあります」
定職がありながら年収200万円以下の「ワーキングプア層」と呼ばれる人々は月収約17万円。一方の生活保護受給者は地域によって受給額の差はあるが、10万~15万円ほど。ワーキングプア層が家賃、税金、社会保険料などを支払えば、“特典”を手にした生活保護受給者に比べて可処分所得(=自由に使えるお金)が下回ってしまうケースも出てくる。
これでは、「生活保護のほうが得」と、多くの低所得者層の若者が生活保護を受けようとするのも、もっともな話だ。
また、年金を受け取るよりも生活保護のほうが得というのも問題となっている。40年間、真面目に働いて、真面目に国民年金を納めてきた人の月々の受給額は約6万6000円。前述したとおり、生活保護受給者は10万~15万円。若いころに年金保険や健康保険料も払わずにきた人間が、最後に行政に泣きついて、生活保護をもらい、年金を納めてきた人の2倍以上の収入を得ているのだから、あまりにバカげた話である。
「いまの制度が続くとすれば厚生年金などがあるサラリーマンは別ですが、年金も納めないで、老後は生活保護をもらったほうが得であるなどという風潮が出てくるのも否定できません。
いずれにせよ、稼働年齢層の就労収入が減り、年金もあてにできなくなって、生活保護に対する風当たりが厳しくなっている昨今ですが、簡単に保護にならないためのセーフティーネットをきっちり完備することなど、社会保障制度の全般的な見直しが必要であると思います」(前出・多村氏)
※女性セブン2012年4月26日号