日本が閉塞感に覆われていると言われて久しい。現状を打破するためにはどうすればいいのか? 地球重力圏外の天体からサンプル採取をして帰還するという世界初の偉業を成し遂げ、映画化作品が続々公開されている小惑星探査機「はやぶさ」。そこに搭載されたOS(オペレーティング・システム)、「ITRON」の開発者であり、世界的に業績を認められた科学者の坂村健・東京大学大学院情報学環教授に、作家・国際ジャーナリストの落合信彦氏が、日本が暗闇から抜け出す術を聞いた。
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坂村:「若者はどうして外国に行かないのか?」という問いに対して、私はまず「仕方がない」という側面を理解する必要があると思います。昔は、外国へ行って勉強をする必要性があった。日本には最先端の教科書すらなかったですから。しかし、今は自国の言葉だけで最先端科学にアプローチできる国になっている。必要に迫られていないわけです。
落合:しかし、このままではまずいわけでしょう?
坂村:もちろんそうです。今はまだそれなりの国内需要がありますが、少子高齢化で人口はどんどん減る。世界とコミュニケーションを取れる人間が増えないといけないのに、そういう訓練を受けてない人ばかりになってしまいます。
問題は日本がとても居心地のいい国だということ。地球上でニートが一番楽に暮らせる国は日本。楽だからといって精神的に幸せとは限らないだろうけど、とにかく楽すぎる。やはり、目の前の安定だけにこだわってはいけない。
落合:確かに単に留学するだけでコミュニケーションを取らなければ意味がない。その意味でバブル時代の留学生たちは酷いのが多かった。日本の大学に入れない連中が、仕方がないからアメリカに行っちゃおうという考え方。それすらファッションとして終わってしまったわけですが。
先生は東京大学で学生を教えている立場ですが、どのように学生たちの目を開かせようとしているのでしょう?
坂村:私のところは文理融合型の大学院で、ちょっとユニークな取り組みをしています。心がけているのは、色んな人を入れること。昔の東大の大学院は東大を卒業した人しかいなかったが、それは時代遅れ。例えば理想形の一つは、東大を出た人が3分の1くらいで、他を出た人が3分の1。あとの3分の1を外国からの学生にする。私の研究室は既に半分ぐらい外国人なんです。そうすると、雰囲気が随分違ってきます。
落合:東南アジアなどから来た学生は、危機感も競争心もあって必死でしょう。
坂村:戦う意欲がありますよ。日本で学んで、国へ帰って頑張ろうと。もちろん、それが日本人も刺激になるわけです。
日本人に能力がないわけではありません。私は最近ヨーロッパに行って感心するのは、日本人の若い料理人で現地の一流の店で働いている人の数の多さです。評判のいい店では、必ずと言っていいほど厨房に日本人がいるんです。本場で料理をマスターする必要がある、という状況であれば貪欲に勉強しに行って、きちんと成果を残せる。
落合:しかし、逆に言えば大多数の日本人は外に出て行く必要性に迫られているにもかかわらず、気付いていないということ。私はそれが恐ろしい。
※SAPIO2012年4月25日号