行動するネット右翼の「在特会」は、会員数1万1000人で、日本の右翼団体中最大の存在だ。彼らの生態とはどんなものなのか。『ネットと愛国~在特会の闇を追いかけて』の著者であり、彼らを「普通の人」と評するジャーナリストの安田浩一氏に、「ネット右翼のリアル」を聞いた。(取材・文=ノンフィクション・ライター神田憲行)
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――安田さんはネット右翼団体「在日特権を許さない市民の会」(通称・在特会)について、「普通の人たちだ」とおっしゃいますが、普通の人がなぜ「中国人を殺せ」などと、激しい言葉をデモでたたきつけるのでしょうか。
安田:タブーを口にする快感みたいなのがあると思うんですよね。ネット右翼のデビューは「2ちゃんねる」で、そこに過激なことを書き込み、賛同してくれたレスに高揚感を持つ。
在特会のネット会員になる、デモに実際に参加する、そしてそこでマイクを持つ……過激なことを言えば言うほど、「仲間」たちから肩を叩かれ、褒められる。やってるうちにだんだん、そういう仲間意識が心地よくなっていくんだと思うんですよ。
在特会を辞めたある地方幹部に話を聞くと、彼は最初に新左翼系の団体とか渡り歩いていたんですよね。でもどうもしっくりこない。それで在特会のデモに参加して、「初めて社会の一員になれた気がした」と語っていました。
新左翼系にいた人だから、在日に対する憎悪なんて最初はなにも無かった。ただ街頭に出て声を出していくなかで、彼の中に「正義」のようなものが芽生えてきて、だんだんそこに絡め取られていくんです。マイクを持って刺々しいシュピレヒコールを叫ぶことで、初めて他人に承認された感じるわけです。承認欲求、誰か自分を認めて欲しいという気持ちがネット右翼一般に通底している感情です。
でもこれ、笑えないんですよね。今の日本社会で安定した雇用に付けて、恋人や家族がいて、友達も多くてという順風満帆な生活を送れている人がどのくらいいるでしょうか。私だって若い頃は貧しくて、孤独感にさいなまれていました。もし当時ネットがあって、在特会のような「受け皿」があったら、自分も一緒に拳を突き上げていたかもしれない。
――でもその人はなぜ在特会を辞めたんですか。
安田:本人曰く「アホらしくなったから」。たとえば東日本大震災で空き地になってしまった海岸線に中国人が大量に移植してくるというデマが掲示板に書かれているのを見て、会員たちが真剣に会話していたそうです。
改めて否定するのもバカバカしいようなデマを真に受ける人たちを見て、「怖くなった」とも言ってました。ちなみに彼は在特会を辞めて、今は反原発運動の市民団体に参加しています(笑)。
――なにか新興宗教を次々と渡り歩く人に似ていますね。
安田:ええ。在特会に入る前は、毛皮反対運動や、チベット問題、教科書採択運動に参加していた人も少なくない。在特会の桜井会長にカリスマ性があるかは別にして、ロジックと言葉に力があることは認めざるを得ない。あと自分たちと異なる意見の持ち主に対して、やたらいきりたったり、攻撃的とかも宗教団体と重なるところがあります。