【書評】『股間若衆 男の裸は芸術か』/木下直之著/新潮社/1980円(税込)
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書名に惹かれて書店で本を取り、目次を見て思わず含み笑いをした。まず、各章のタイトルが秀逸だ。〈股間若衆〉〈新股間若衆〉〈股間漏洩集〉〈股間巡礼〉わざわざ本歌をあげるのは野暮だろう。
著者はサントリー学芸賞や芸術選奨文部科学大臣賞を受賞している東大教授だが、洒脱な人のようだ。
本書は、明治以降、日本の男性裸体彫刻が被ってきた受難の歴史を検証するというユニークなテーマの作品だ。著者は4年ほど前、東京の赤羽駅前に設置されている「未来への讃歌」(1993年作)という2人の若い男性の裸体彫刻に釘付けになった。
〈一瞬、我が目が曇ったのかと思った。あるべきものがあるようでないそれは、本当に不思議な股間だった〉。膨らんではいるのだが、そのものの形をしていないのである。
以来、著者は〈股間巡礼〉の旅に出た。すると、丸かったり、切断された断面のようだったりといった〈曖昧模っ糊り〉、あるいは局部の代わりに葉っぱをつける、フンドシやパンツで隠すといった、様々な股間表現に出会った。
100年ほど前、文部省(当時)主催の第2回展覧会が開かれた時、ある男性裸体彫刻に官憲からクレームがつき、局部を切断して展示されるという一件があった。今では考えられないが、いつ国家の基準や市民感情が豹変するかわからない。
だから、独特の股間表現は〈長い歳月をかけて、日本の彫刻家が身につけた表現であり、智慧〉なのだ、と著者は書く。男性裸体彫刻は、表現方法について独特の葛藤を強いられてきたのである。
本書の表紙は〈曖昧模っ糊り〉な作品の写真である。芸術と認めるならば、若い女性のレジ係に堂々と差し出そうではないか。
※SAPIO2012年5月5・16日号