中国ではネット上の書き込みに規制が加えられている。それがさらに強化されることとなったが、中国の三大通信事業会社は、そろって「社会からの監視を歓迎する」とまで表明した。中国ネット空間の知られざる実態を、ジャーナリストの富坂聡氏が解説する。
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4月25日、中国の三大通信事業会社と呼ばれるチャイナ・テレコム、チャイナ・モバイル、チャイナ・ユニコムがそろってネット上の言論に対する規制を受け入れるという声明を出し話題となった。
3社は「ネット上の取締りは通信事業者の当然の義務」とした上で、「社会からの監視を歓迎する」と表明したのである。具体的には関連する296社と協力して取締りを強化することを発表したのである。
中国ではネット上の書き込みに規制が加えられ、それがサイバーポリスと呼ばれる集団や、サーバー管理者の自主規制などさまざまなシステムや方法によって行われていることは広く知られている。
今回の声明は、急速に普及しつつあるスマートフォンも含めたネット空間を、新たに厳しく管理しようとの当局の決意表明と考えて間違いない。この背景にあるのは、今年3月から中国全土を賑わしている薄煕来前重慶市党委員会書記兼政治局委員の解任問題である。
現最高指導部と次期最高指導部入りが取りざたされた薄氏との間に起きた権力闘争の過程では、薄氏に関するさまざまな憶測がネットに溢れて既存メディアに先行した。
薄氏に関する悪い噂は、彼が重慶書記を解任されるまでは、当局によってせっせと削除されてきたのだったが、これは政治局委員の解任が決まると同時に一気にノーズロとなってしまうのだった。
もはや書き込みを削除するにしても物理的な限界があるという事情もあるだろうが、もっと根本的な部分では当局が薄氏の悪い噂の打ち消しにコストを支払うことを放棄したことが指摘されるのだ。
では、なぜこの時期に改めて規制を強化しなければならないのか。この疑問を解くカギは、やはり政界にあると語るのは共産党関係者だ。
「薄のさまざまな疑惑がネット上で書き放題なのに対して、いまも積極的に削除され続けているのが周永康政治局常務委員(常委)に関する疑惑です。この事件がどこまで拡大するのか。そのカギを握るとされる人物ですが、ここにきて周常委の問題については徹底的に削除しているということは、党中央がこの問題を慎重に扱おうとしている証拠です。何といっても薄氏に鉄槌を下すのと現役の常委を追い詰めるのでは、明らかに次元の違う話ですからね」
中国を動かす“トップ9”の一人といえば絶大な権力だ。だが、この秋の党大会で引退すると目される周氏の環境を考えれば、たとえ重大な疑惑があったとしても、自然死を迎えてもらった方が収まりは良い。そのためには徹底して疑惑の芽を摘んでしまうことだという考えが党中央に働いていても不思議ではないというのだ。