ライフ

がんは老化 何も治療しない方が穏やかに死ねる例多いと医師

「大往生したければ医療と深く関わるな」「がんで死ぬのがもっともよい」。そんな主張をする医師が京都にいる。京都の社会福祉法人老人ホーム「同和園」の常勤医を務める中村仁一氏だ。これまで数百例の自然死のお年寄りを見送ってきた中村氏から、老人医療の問題点、これからの日本人か持つべき死生観について聞いた。(聞き書き=ノンフィクション・ライター神田憲行)

 * * *
 医者のくせに「大往生したかったら医療に深く関わるな」というと、みなさん、いぶかられると思います。でもいま、年寄りは病院で苦痛の果てに死んでいます。そのままにしていたら、医療が濃厚に介入しなかったら。きっと穏やかな死を迎えていたはずなのです。

 病気やケガを治すのは、基本的には、その人が持つ「自然治癒力」なんです。医者はそれを助ける「お助けマン」、薬は「お助け物質」にすぎません。医療は年老いたものを若返らすこともできなければ、死を防ぐこともできません。「老いと死」には無力なのです。

 たとえばがんですが、これは老化なんです。研究者によってまちまちなんですが、どんな人でも毎日5000個ぐらい細胞ががん化しているといわれているんです。でもそれを私たちの身体に自然に備わっている免疫の力で退治しているので事なきを得ているのです。ところが年とともにこの力が衰えますから、年寄りががんになっても当たり前、驚くにはあたらないんです。

 がんの予防には「がんにはならないようにする」一次予防と「なったものを早く見つける」二次予防があります。二次予防には「早すぎる死」を防ぐという目的があります。繁殖を終えて、生きものとしての賞味期限の切れた年寄りには、もはや「早すぎる死」というものは存在しません(笑)。

 まだライフワークが残っている年寄りは別として、そうではない、普通の年寄りに「がん検診」はどれほどの意味があるのでしょう。繁殖を終えたら死ぬ、これは自然界の“掟”です。鮭は産卵後間なしに息絶えますし、一年草も種をつければ枯れるんです。

 一般にがんは強烈に痛むものと受け取られていますが、ホスピスの調査でも痛むのは7割程度と言われています。逆に言うと、3割は痛まない。つまり3人に1人は痛まないことになります。私の施設でも食が細り、顔色が悪くなってやせてきた、おかしいということで病院で検査したら末期のがんで手の施しようがない。家族も年も年だし、おまけにぼけている。これ以上苦しめたくない、というので老人ホームに戻ってきた。

 そのまま何もしないと最後まで痛まずに往生した。少なくとも発見時に痛みのない手遅れのがんは最後まで痛まないということは確実に言えそうですね。巷間いわれるように、がんが痛いものならどうして早くから痛まないのでしょうね。

 胃がん・肺がん・大腸がんなど塊になるがんは抗がん剤を使っても、多少小さくなることはあっても、消えてなくなることはありません。抗がん剤は猛毒ですから、正常な身体の組織や細胞に甚大な被害を与えます。当然、Q.O.L(生活の中味)が落ち、ヨレヨレの状態になってしまいます。

 ですから繁殖を終えたら、抗がん剤は使わない方がいいと思います。延命効果はなくとも必ず縮命効果はあるはずです。よしんば数ヶ月延命したとしても、どういう状態で延命するのか考えて下さい。

 青息吐息のヨレヨレの状態で生きてもあまり意味ないでしょう。長生きするつもりが、苦しんだ末に命が短くなっているのが現実ではないでしょうか。

「がんで死ぬんじゃないよ、がんの治療で死ぬんだよ」というわけです。

【中村仁一氏プロフィール】
1940年、長野県生まれ。京都にある社会福祉法人老人ホーム「同和園」付属診療所所長、医師。京大医学部卒。財団法人高雄病院院長、理事長を経て、2000年2月より現職。著書に「大往生したけりゃ医療とかかわるな」(幻冬舎新書)などがある。

関連キーワード

トピックス

歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン