6月に、国内での牛のレバ刺し販売が全面禁止になる。厚生労働省の薬事・食品衛生審議会が全面禁止の規制案を打ち出すと、4月12日には内閣府の食品安全委員会がそれを了承した。違反した業者は、2年以下の懲役または200万円以下の罰金という厳罰に処される見込みだ。既に多くの焼肉店では、自主規制でメニューからレバ刺しを削除している。
きっかけは、昨年、焼肉チェーン「焼肉酒家えびす」でユッケ(牛肉の刺身)を食べた5人が、腸管出血性大腸菌(O111)による食中毒で亡くなったことだった。
これを機に厚労省は生食用肉の安全調査に乗り出した。その結果、ユッケは衛生基準が厳しくなったものの引き続き提供できることとなった一方で、食中毒事件とはまったく関係のない「レバ刺し」がなぜか全面禁止されることになってしまった。厚労省は以下のように説明する。
「腸管出血性大腸菌(O111やO157)による食中毒例はユッケやローストビーフ、野菜などにもある。しかし牛レバーの場合、それらの食品とは汚染経路が全く違う。解体処理の際、大腸菌が胆管を経てレバー内に直接入り込んでしまうのです。ユッケなど他の食品は洗ったり表面を削いだりすることで菌を取り除くことができるが、牛の生レバーの場合は難しい。そのため禁止という結論になった」(同省医薬食品局食品安全部基準審査課)
大事なのは「経路」ではなく「危険性」だろう。
「平成23年食中毒発生事例」(厚労省調査)によれば、昨年は全国で1062件の食中毒が発生し、2万1616人が病院などで処置を受けている。うち牛レバーによるとされたものはたった12件、61人に過ぎない。
他の食品による食中毒と比較しても多くない。件数では生ガキなど貝類によるものは50件、きのこ類は37件、猛毒のフグでも17件ある。患者数ではもっと大きな差があり、給食などに使用される食品、食材が圧倒的に多い。原因が特定されたものではブロッコリーサラダが1件の事故で1522人、かぼちゃのそぼろ煮が448人、もやしのナムルが364人などの大きな被害を出した。少なくとも危険度からすれば、牛レバーを規制する前に、これらの問題に対処するのが当然だ。
昨年の食中毒による死者11人にも、牛レバーを原因とするものは含まれていない。さかのぼっても1998年以降、牛レバーによる食中毒の死亡例はない。
レバーやホルモンなどの新鮮さを売りにしている都内のある焼肉店は、「レバ刺しの提供を控えた結果、売り上げは約1割ダウンした」と悲鳴を上げる。
消費者や飲食店に大きな負担を強いるにもかかわらず、規制の効果はごく限定的なものなのだ。
※週刊ポスト2012年5月18日号