大阪市西成区は、仕事を求めて全国からやってきた日雇い労働者が数多く暮らす。それに加え、生活保護の受給者も多い。大阪市自体、18人に1人が受給者であり、全国平均(66人に1人)に比べて多いのだが、その中でも西成区は突出している。受給者は2万8000人(3月末)。実に「4人に1人」だ。
毎月1日の生活保護費の支給日は、西成区では「給料日」と呼ばれている。
5月1日の朝、本誌記者が西成区役所を訪れると、始業前だというのに、玄関前には200人を超える大行列ができていた。8時30分に正面玄関が開き、受給者が中になだれ込む。9時の始業チャイムが鳴ると、そこは“戦場”と化した。
順番を待つ人たちでフロアはごったがえし、満員電車状態。受給者を呼び出す十数人の職員の大声と、「ワシや、ワシや」「どかんかい!」といった怒号が飛び交う。保健福祉課のある3階では対応しきれず、4階の会議室も開放。2台あるエレベーターのうち、1台は4階直通となった。
保護費は原則、銀行振り込みだが、希望者には現金払いも認められている。その数は約1700人。新規受給者も増え続けており、今年3月だけでも生活保護申請件数は317件で、290人の受給開始が認められた。相談件数は594件、面接は911件に上っている。
背景には「西成は(保護費を)もらいやすい」との情報が流布している現状がある。区の担当者は「審査が甘いわけではない」と否定するが、全国紙在阪支局記者はこう語る。
「区内には敷金・礼金がかからず、保証人も必要がないのですぐに入居できる“福祉アパート”と呼ばれる施設がたくさんある。住居があれば生活保護の申請がしやすくなるため、仕事がなくてもここに入れさえすれば保護費がもらえると、全国から人が集まってくる」
現在、同区内には福祉アパートが100軒近くあるとされる。その多くが、かつて1泊1000円前後で労働者向けに営業していた簡易宿泊所だった。しかし昨今の生活保護受給者の急増に合わせて、業態を変えた。区内を歩くと、〈アパート始めました。生活保護等の相談承ります〉と書かれた張り紙が目につく。
※週刊ポスト2012年5月18日号