政府のエネルギー・環境会議はこれまで、電力需給見通しを今夏は全国で1656万kW(9.2%)不足すると予測していたが、4月23日に公表されたものでは、2010年並みの猛暑でも65万kW(0.4%)のマイナスまで縮まった。原発再稼働を推進してきた民主党政権にとっては目論見が崩れてきたわけだが、再稼働派は、電力不足の嘘が隠しきれないと見るや、今度は電気代の値上がりを理由に再稼働キャンペーンを始めた。
その論理の化けの皮も剥いでみよう。
まず発電所の建設費や維持費などを含めた発電コストを比べると、政府のコスト等検証委員会の試算でさえ、原発と火力発電(日本の火力の大半はLNG火力と石炭火力)の差はほとんどない。1kWhあたりの発電コストは原発が約8.9円(※)に対して、石炭火力は約9.6円、LNG火力も約11.2円、水力は約10.6円だ。しかもこの試算には税金で負担する核燃料サイクルなど原発関係の補助金が含まれていない。
環境経済学が専門の大島堅一・立命館大学教授は、補助金などを加えたコストを独自に試算した。それによると原発の発電コストは10.68円になり、火力の9.9円(そのうち財政負担は0.1円)より高い。
大島氏が語る。
「原発を停止すればコストがかかるという議論は短絡的です。原発と火力はコスト構造が違う。火力は燃料費の割合が高く、今後の資源高で費用がかさむといわれるが、将来コストという面では原発も使用済み核燃料の廃棄、処分費用がいくらかかるか不明だ」
それではコストを下げるためにはどうすればいいのか。大島氏の答えは明快だ。
「原発を再稼働させるか、そうでなければ廃炉を決定して原発の固定費を減らすしかない。停止中の原発は、電力をつくらないのに人件費や改修、点検など固定費がかさみます。再稼働に向けて原発をスタンバイ状態にして、火力をフル稼働させる現在は二重にコストがかかっている。それを火力の燃料費だけのせいにするのは間違っています。
電力会社は火力よりもコストの低い原発を再稼働させたい。しかし、国民負担の観点からいえば税金を含めたコストは原発の方が高いのだから廃炉にした方がプラスです。政府はそうしたコスト構造を正確に開示していない」
※東京電力福島第一原発の事故の賠償金を6兆円として試算されている。賠償額が1兆円増えるごとに発電コストは0.1円アップする。
※週刊ポスト2012年5月18日号