最も恐れていた事態が現実に起こってしまった――これが永田町のホンネだ。座敷牢に入れられていた小沢一郎が無罪判決を受けて表舞台に戻ってくる。すくみ上がった与野党議員は「それでも小沢は政界追放!」とヒステリックに叫ぶが、その前に自分自身の収支報告書をじっくりと眺めることをお勧めしたい。
まずは野党。自民党の次期総裁候補の1人である石原伸晃・幹事長はこう噛みついた。
「政治的、道義的責任は重い。証人喚問を求める」
もし仮に「借入金の不記載」「期ズレ」が国会で説明すべき“犯罪”ならば、石原幹事長の「政治とカネ」はどうか。
代表を務める党支部の2003年の政治資金収支報告書では、6万8000円だった講演会の会場使用料を68万円と記載し、その後数年にわたって繰越金額も誤って記し続けた。毎年数十万円も収支が合わなければ気づいて当然だが、相当ずさんな会計をしていたらしく、外部からの指摘で誤記が発覚したのは5年後。政治資金を1円単位まで精査して公表する小沢事務所では考えられないミスだ。だが、この件も報告書の修正だけでお咎めなし。
さらに石原氏には、橋本派1億円闇献金事件(※)の日歯連から巨額の迂回献金を受け取った重大疑惑もある。2001年4月から2003年9月まで小泉内閣で行政改革・規制改革担当大臣を務めた石原氏は、日本歯科医師会の懸案だった医療規制改革にかかわる立場にあった。迂回献金の手法は、日歯連がいったん自民党の資金団体「国民政治協会」に献金。その後、党本部から石原氏(党支部)への交付金として2000~2002年で総額4000万円が環流したというものだ。
党本部から1000万円単位の臨時交付金は異例で、計4回の献金はすべて日歯連から支出されて2週間ほどで石原氏側にわたっていた。日歯連の元会計責任者は闇献金事件の公判で、「特定の代議士に献金しても、国民政治協会から日歯連に領収証が発行された」と迂回献金のカラクリを証言している。まさに贈収賄につながりかねない疑惑だ。
小沢氏が政治資金で不動産を取得したことが問題ならば次のケースはどうか。
次期総裁選への出馬を明言している自民党の実力者、町村信孝・元官房長官は、2001年、資金管理団体「信友会」を通じて1000万円の不動産(北海道江別市)を取得し、6年後に600万円の安値で買い取って自宅にしている。不動産購入どころか、政治資金の私的流用さえ疑われるケースにもかかわらず、大メディアは報じず、捜査当局も動いていない。
無罪判決が出る前から、小沢氏を「無罪でも証人喚問すべき」と強く訴えた江田憲司・みんなの党幹事長も、代表を務める政治団体「憲政研究会」で2003年に840万円の不動産(横浜市)を購入している。小沢氏に対し、政治資金で不動産を買うこと自体がよくないと批判した政治家、メディアは多かったが、ならば彼らも厳しく追及すべきだろう。
そもそも日付や金額の間違いなど、収支報告書の修正は2011年だけでも581件に上る。そのすべての議員や会計責任者が逮捕、強制起訴され、証人喚問を求められなければ、司法府も立法府もダブルスタンダードを認めることになる。
※日歯連闇献金事件/日本歯科医師連盟から橋本派への1億円をはじめ、多くの自民党有力議員に巨額の闇献金や迂回献金が行なわれた事件。診療報酬改定など医療政策で有利な政策をとってもらうための工作資金だったとされる。
東京地検特捜部は2004年に橋本派会長代理の村岡兼造・元官房長官を政治資金規正法違反で立件(有罪確定)したが、捜査の過程で橋本派以外にも、山崎拓氏、石原伸晃氏などへの迂回献金疑惑が発覚して国会で追及され、時の小泉政権を揺るがす大きな問題となった。
※週刊ポスト2011年5月18日号