しなびた野菜を50℃の湯で洗うと、途端に鮮度が蘇る――。驚きの効果を発見したのは、蒸気技術工学の専門家で、スチーミング調理技術研究会代表の平山一政氏(75)だ。この効果は食品全般に共通するといい、野菜だけでなく肉でも同様の変化が見られるという。実際に検証してみよう。
「加工段階でカットされた部分は、空気に触れると揮発成分が蒸発を始める。そして酸素と結合し酸化物が生成され、アクとして付着します。おいしさを損うこの成分も、『50℃洗い』で取り除くことができるのです」(平山氏)
鶏肉の中でも肉質が固めのむね肉を洗ってみる。湯につけると表面がうっすらと白く変色する。指でなでると酸化物や脂肪分が落ちているのか、湯が白く濁ってきた。じっくり2分ほど湯の中に沈めながら洗い、取り出すと、身がふっくらと膨らんでいた。元の状態と「50℃洗い」の後に乾かした肉の重さを測ると、ヒートショックによる水分吸収のせいか、重さが増すという結果が。
「50℃洗い」後の肉は15~20分で熟成するため、すぐ調理すること。洗う前のむね肉は酸化した脂が臭く煙まで出たが、洗ったむね肉は臭いもなく煙も出ない。食べ比べると「50℃洗い」の方はふっくらと弾力があり、手で裂くと肉の繊維が絡み合う。パサつくむね肉とは思えないほど味もジューシーで、旨みが閉じ込められた感じだった。
牛肉や豚肉でも同様の変化が生じたが、重さが増すのと反対にカロリーは減。計測してみると豚肉の場合、100グラム中のカロリーが、279キロから243キロに減少。ヘルシーにも食せる結果に。
※週刊ポスト2012年5月18日号