ベストセラー『がんばらない』の著者で、諏訪中央病院名誉院長の鎌田實氏は、東日本大震災の被災地支援のため、たびたび現地入りしている。その鎌田氏が、被災地に寄付を続けたヤマト運輸の試みを紹介する。
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資本主義社会で生きる以上、僕は経済がとても大切だと考えてきた。40歳で諏訪中央病院の院長を引き受けたとき、病院には4億円の累積赤字があった。いい医療を続けるためには、病院を黒字経営に転換しなければならない。
どうやって収入を増やすかを考え続けた。懸案の赤字を解消し、黒字にした経験があったから、経済誌からも声がかかり、これまで多くの成長企業の社長と話をする機会があった。今回はその中でおもしろくて元気な会社の話をしよう。
宅急便でお馴染みの「ヤマト運輸」では、新社長の山内雅喜さんと会った。震災のときには、いち早くボランティアスタッフが動いた。救援物資を持って、道路が壊滅的な状況の中、体育館で避難している人たちに届けたという。
そして10日後には、被災地に向けて宅急便を再開した。被災者の多くは家を流され、家から避難していた。どこに避難しているかも分からない中で、聞き取りや噂を頼りに物資を渡していった。
また画期的な試みも行なった。宅急便1個につき、10円分を寄付するという決定を行なったのである。僕は、株主たちが許さないのではないかと思ったが、予想はいいほうに裏切られた。
「社員には、朝礼で報告しました。すると拍手がおき、賛同が得られました。続いて株主総会で丁寧に説明しました。ここでも割れんばかりの拍手がおきました。外国の大口の機関投資家も、大変いいことだと評価してくれたのです」と山内社長。
資本主義もまんざらではない。この支援は、今年の3月いっぱいで終了したが、寄付総額で142億3600万円になった。これはヤマト運輸の純利益の40%に当たる。大したものである。社員も株主も温かい会社なのだ。
※週刊ポスト2012年5月18日号