トマトケチャップの普及は「オムライス」「ナポリタン」という日本独自のメニューを生み出した。日本にトマトケチャップを普及させたカゴメが、パスタやスープ、ご飯にも合う万能調味料『うま辛ドライトマト』を発売し、好評を得ているという。
イタリアンでは定番のドライトマトだが、日本では一部の好事家以外の食卓に上がる機会はあまりない。カゴメは、2005年に手軽に使えるオイルベースのパスタソースを発売したが、日本ではドライトマトが浸透していないことを改めて痛感した。カゴメの商品企画部食品グループ課長・柳瀬勇司はこう語る。
「日本人の口に合う商品が必ず作れるはず。飽きずに続ければ、必ず新たな発見があると思っていました」
トマト好きが高じて入った会社。トマトについて多くを学び、トマトを愛している。それだけに柳瀬は、「既視感」や「べき論」などに惑うことのないように常に自分を戒めてきた。開発は決してスムーズではなかった。ドライトマトは1個のトマトからわずか6~7gしか取れない希少な食材だが、あまり高い価格設定にもできない。商品に使うための十分な量の原材料をどこから調達するかが問題だった。
世界のトマトを熟知する原料調達・研究部門のスタッフたちが、知力と人脈を駆使して選んだのが南米チリ産のドライトマトだった。「トマトはもともと南米原産。それが欧州に渡り、品種が改良され、また南米に戻っています。
皮の厚さ、果肉の状況などつぶさに調べあげて選びました」トマトが収穫できるのは1年のなかでも1作だけである。十分な量の原材料を確保する仕事が予想以上に時間を要した。
その間、「食べるラー油」ブームが世間を走り抜けていく。地中海沿岸では、オリーブオイルで漬けるのが主流だが、日本人の味覚に合わせるために、にんにくをベースに、醤油、唐辛子、バジルもブレンドした調味油を使用した。
一瓶に使用するトマトは4個。そのまま食べても、ご飯に載せても美味しい調味料が完成した。もちろんパスタや野菜炒めなどさまざまな料理にも合う。『うま辛ドライトマト』と名付けた商品は2011年8月に発売された。関東甲信越限定でのスタートだったが、ほどなく他地域からの問い合わせが殺到する。
全国発売は今年2月14日。504円の販売価格は一見、高価に感じるがイタリアン好きの消費者からは「安い」と受けとめられている。
(取材・構成/中沢雄二)
※週刊ポスト2012年5月25日号