東京電力は7月1日から家庭や商店向けの電気料金を平均10.28%値上げすると発表した。原発を代替する火力発電の燃料費増加分は毎月の「燃料費調整」の値上げではまかなえず、リストラによるコスト削減を見込んでも年間6763億円の赤字になるから、その分を値上げするという説明である。
しかし、東電がそもそも値上げの根拠にしている「燃料費の高騰」が眉つばなのだ。
電力会社は総括原価方式によってかかったコストをすべて料金に転嫁できるため、発電所の建設費から燃料の調達、人件費や社員の福利厚生まで金を使い放題でコスト削減の意識がなかったと批判されている。国民に負担を強いる新料金のコスト計算からも、どんぶり勘定でバカ高い燃料を買っていることがわかる。
火力発電の燃料には天然ガス(LNG)や石炭、石油があるが、主力はLNGだ。東電の燃料費もLNGが圧倒的に大きく、2011年度は約1兆5295億円分(重油は約3898億円)を購入している。調達量から計算すると1トン平均6万3500円で買っている。
それが国際相場と比較していかに高いかを資源エネルギー論の岩間剛一・和光大学経済経営学部教授が指摘する。
「国際市場ではLNGは100万BTU(※)あたりの価格で取引される。米国では近年、地下の岩盤にあるシェールガスが採取されるようになった。そのため天然ガス価格が大きく下がり、この4月には1.8ドルをつけた。
しかし、日本は中東や東南アジアの産油国から調達し、価格も石油価格に連動するという不利な契約で、昨年は概ね18ドルで買っています。ざっと10倍の高値です。ただし、北米産を調達する場合、液化して専用船で運搬しなければならない。
その液化コストが2.5~3ドル、輸送コストが3ドル、合わせて8ドル程度になる。しかしそれでも現在の半額以下です。現に、電気料金が日本より安い韓国は米国からそれに近い10ドル程度の価格で買っていると見られている」
2011年度の東電のLNG購入費は約1兆5295億円。それを半額で調達できると仮定すれば、7648億円が浮いた計算だ。値上げどころか、それだけで電気料金の値下げも可能になる。シェールガス産地のLNG輸出プロジェクトで操業しているものはまだないが、「2016年には供給開始できる」(商社社員)とされ、近い将来、調達価格が大幅に下がることが期待できる。
ところが、値上げ申請資料では、東電は今後3年間のLNG価格を昨年よりさらに13%も高い価格で買うと試算している。バカ高い燃料を買い続ける東電の無能経営のツケを電気料金値上げで国民に回されてはたまらない。
今からでも遅くはない。シェールガスはカナダなどでも開発が進んでおり、日本の三菱商事が北米最大級の埋蔵量を持つ鉱区の権益を獲得し、近く生産を開始する。東電が天然ガスの調達先を見直せば、当面は燃料コストが赤字でも、いずれ燃料費が大きく下がって値上げなしでもその分をカバーできるはずなのだ。
※BTU/英熱量。1ポンドの水の温度を華氏で1度上げるのに必要な熱量と定義される。
※週刊ポスト2012年6月1日号