原子力損害賠償支援機構と東京電力が国の1兆円出資を柱とする東電の総合特別事業計画を決めた。機構と東電が発表した計画は、1兆円出資による総議決権の2分の1超の議決権取得について「一時的公的管理」という言葉を使っている。
機構と東電の言い分をそのまま認めるとしたら「一時国有化」という言い方がもっともらしく聞こえる。だが、それは間違いだと、東京新聞・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏は指摘する。以下は、長谷川氏の解説だ。
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機構と東電が「一時的」というからには、どこかの時点で公的管理を終わらせないとつじつまが合わない。
そこを計画がどう書いているか、と言えば「東電の集中的な経営改革に一定のめどがつくか、または社債市場において自律的に資金調達を実施していると判断した段階で(中略)保有議決権を2分の1未満に低減させて一時的公的管理を終結」させるとある。具体的には「2010年代半ば以降のできるだけ早い時期」が目標だ。
計画が言うように、経営改革が実って、東電が再び社債を発行できるようなハッピーエンドを迎えるのは可能なのか。結論から言えば、とても考えられない。これまでも指摘してきたが、被災者への賠償と廃炉、除染が途方もない巨額に上り、東電の復活が展望できるとは思えないからだ。
まず賠償額。計画は2兆5462億円という数字を示したが、これはあくまで仮置きにすぎない。営業被害や風評被害の規模、肝心の損害がいつ終わるのかがはっきりせず「賠償総額の合理的な見積もりは難しい」と認めている。廃炉と除染費用にいたっては見積もりすら示していない。
それはそうだ。事故から1年以上が過ぎても、新たな汚染の実態があきらかになっている。たとえば、東京新聞は5月14日付の特報面で宮城県仙台市の有機農業家の例を報じた。
当面は国や地元自治体が除染作業をするとしても、最終的に費用は東電の負担になる。前例がない廃炉は技術開発からスタートだ。政府が言うように40年で終わる保証はどこにもない。
賠償と廃炉、除染にかかる費用は総額で十数兆円どころか数十兆円にのぼってもおかしくないだろう。これは潜在的な負債である。一方、2013年3月期の決算で東電の純資産は8124億円にとどまった(連結ベース)。前期の1兆6024億円から半減だ。
この数字を見れば、東電は事実上、経営破綻している。計画は14年3月期に収益の黒字転換を目指しているが、それも柏崎刈羽原発の再稼働と電気料金値上げが前提だ。
つまり、東電が社債市場に復帰するという見通しは絵に描いた餅と言っていい。したがって、国の公的管理が一時にとどまる見通しもない。このままだと半永久的に国有化が続くだろう。
※週刊ポスト2012年6月1日号