4月22日、自然界で「36年ぶり」のヒナ誕生が確認されたトキ。その後、別のペアから次々にヒナが誕生、計8羽(5月21日現在)となり、佐渡は突然の“ベビーラッシュ”に沸いている。ここでおおきな貢献をしたのが佐渡トキ保護センターの獣医師・金子良則さんだ。
取材の日、金子さんは約束の時間に遅れてセンターに戻ってきた。
「あっ! すみません」
取材を忘れていたと申し訳なさそうに頭を下げる金子さん。ある買い物に行っていたのだという。
「足の悪いヒナがいて、半日もしたら立てなくなるかもしれないから、滑り止めのマットを買いに…」(金子さん)
金子さんの頭の中はトキ以外のことがはいる余地がない。親が放棄した卵は人工ふ化させているが、金子さんは毎日すべての卵の重さを量り、変化をチェック。ふ化が近づけば泊まり込みで見守る。そうして生まれたヒナに餌をやるのも金子さんだから、まさにトキにとっては親代わりだといえる。
「トキは賢くて、人の顔を3人までは識別できる。ケージにはいるときは頭をつつかれるので野球帽をかぶっていますが、ぼくの顔がわかるように反対向きにかぶっているんです。好奇心の強いやつとか、臆病なやつとか、性格もいろいろ。ペアリングではだいたい雌が雄を選ぶんだけど、たいていモテるのは優しい雄。乱暴者の雄は嫌われますね」(金子さん)
交尾の後など気分のよいときには「アーッ」と高らかに鳴き、警戒しているときには「ターッ」と緊張気味の声を出すという。
そんな繊細なところはなんだか人間に似ていて面白いが、それは“子育て”でも同様だ。
「子育ても、カカア天下のほうがうまくいく。雄はヒナの世話をしたくて仕方ないんだけど、下手。だから雌が主導権をとって、大事なところは雌がやる。ふ化のときとか、生まれたばかりのヒナに餌をあげるのは雌の仕事。で、つらい夜勤は雄の仕事なんだ(笑い)」(金子さん)
首を伸ばしてひっきりなしに餌をせがむ食欲旺盛なヒナたちのために、親たちは1日に何往復もして自分たちが食べる4~5倍もの食糧をとってこなければならない。天敵の危険に、食糧問題・親も子も、厳しい自然界で生き抜くために必死で闘っている。
※女性セブン2012年6月7日号