国際情報

櫻井よしこ氏「沖縄の反米、反基地、反日論調を中国は歓迎」

 4月の北朝鮮のミサイル発射(結局は失敗)に対し、政府はPAC3(地対空誘導弾パトリオット)を沖縄本島と先島諸島に配備した。これに対して地元メディアは「穏やかでない」など敵視するような社説を掲載。だが、日米同盟に支えられた国防力なくしては、中国の軍事的脅威から沖縄、そして日本を守れないとジャーナリストの櫻井よしこ氏は危惧する。

 * * *
 感情的な反米報道の一方で、沖縄のメディアは中国の蛮行には目をつぶります。

 2004年11月に中国の潜水艦が石垣島周辺の日本領海を侵犯した時に、大浜市長をはじめ、沖縄の有力政治家が強く抗議したという話を私は寡聞にして知りません。2010年4月に中国艦隊が尖閣諸島沖の東シナ海で大規模訓練を行ない、その後に沖縄本島と宮古島の間を航行した時も同様です。地元メディアの中国の脅威についての報じ方は、まるで問題意識を欠いていると言ってよいでしょう。

 沖縄の経済界の言動にも理解しがたいものがあります。沖縄最大の建設会社・國場組の元会長で財界の重鎮である國場幸一郎氏(沖縄県日中友好協会会長)が「沖縄にとって中国は親戚で日本は友人、親戚関係をもっと深めたい」と発言したとの記事が、琉球新報などに掲載されています(共同通信の配信記事)。この記事では、東シナ海における中国の強硬姿勢に対しても〈沖縄の経済界では懸念の声はほとんどなかった〉とされています。

 しかし、このような考え方は、日本人として非常識ではないでしょうか。自らが所属する日本国を友人と位置づける一方で、尖閣、沖縄への野心を隠さない中国を血のつながった親戚とし、日本国よりも近い存在と位置づけることへの疑問を提示するのがメディアの役割でしょう。

 中国はすでに沖縄を自国の領土に組み込むための伏線を張ってきています。2010年9月19日には、人民日報傘下の環球時報が、在日中国大使館に勤務した経験がある研究者・唐淳風氏の論文を掲載しました。その中で唐氏は「沖縄は日本の領土ではないのだから、日本は釣魚島(尖閣諸島の中国名)について中国と対話する資格はない」とし、「沖縄では住民の75%が日本からの独立を望んでいる」と書きました。

 また、新華社は同年8月20日、中国社会科学院日本研究所の学者・呉懐中氏が「沖縄の主権は中国に属する」と主張したことを紹介しました。最近では中国のネット上に「中華人民共和国琉球自治区」や「中華民族琉球自治区」といった言葉が当たり前のように飛び交っています。

 中国は尖閣諸島を「核心的利益」と呼び、沖縄までその食指を伸ばそうとしています。

 このように沖縄を虎視眈々と狙う中国にとって最も好都合なのは、米軍が沖縄からいなくなることです。そのために、沖縄で反米・反基地運動が盛り上がり、日米同盟に楔が打ち込まれれば中国にとって思惑通りであり、中国の沖縄に対する働きかけは幾層にもわたって行なわれているはずです。

「世論戦」を仕掛け、相手国の「世論の分断」をはかることは中国の得意とするところです。反米、反基地、そして反日の論調が強い沖縄の現状は、中国の歓迎するところだと思えてなりません。

 一党独裁体制を維持するためには国際ルールも人の生命も顧みない中国共産党の価値観と、自由と民主主義を守ろうとする価値観との戦い今、世界はこの2つの陣営に二分され、「第二の冷戦」と言ってもよい状況にあります。

 いたずらに「反米」「反基地」一辺倒となっている地元メディアや政財界は、こうした状況をしっかり認識すべきです。そして政府は、彼らの声に左右されるのではなく、例えば辺野古地区の有権者の7~8割が、名護市市長選で受け入れ容認派の島袋吉和氏に投票するなど、沖縄の“本当の民意”が変わりつつあることを踏まえて、国益を前提に米軍再編と国防のあり方を考えていくべきなのです。

※SAPIO2012年6月6日号

関連記事

トピックス

船体の色と合わせて、ブルーのスーツで進水式に臨まれた(2025年3月、神奈川県横浜市 写真/JMPA)
愛子さま 海外のプリンセスたちからオファー殺到のなか、日本赤十字社で「渾身の初仕事」が完了 担当する情報誌が発行される
女性セブン
MajiでFukkiする5秒前(時事通信フォト)
2年ぶり地上波登場の広末涼子、女優復帰は「過激ドラマ」か 制作サイドも“いまの彼女ならなら受けるのでは”と期待、“演じることにかつてなく貪欲になっている”の声も
週刊ポスト
YouTubeでも人気を集めるトレバー・バウアー
【インタビュー】横浜DeNAベイスターズ、トレバー・バウアー「100マイルを投げて沢村賞を獲る」「YouTubeは第2の人生に向けての土台作り」
週刊ポスト
ドバイの路上で重傷を負った状態で発見されたウクライナ国籍のインフルエンサーであるマリア・コバルチュク(20)さん
《ドバイの路上で脊椎が折れて血まみれで…》行方不明のウクライナ美女インフルエンサー(20)が発見、“危なすぎる人身売買パーティー”に参加か
NEWSポストセブン
旧統一教会は今後どう動くのか(時事通信フォト)
解散命令を受けた旧統一教会 「自民党への復縁工作」もありうると鈴木エイト氏指摘、教団と議員の関係を示す新情報リークの可能性 石破首相も過去に接点
週刊ポスト
藤川新監督(左、時事通信フォト)の船出とともに、名物商店街にも大きな変化が
阪神「日本一早いマジック点灯」のボードが電光掲示板になっていた! 名物商店街が今季から「勝った翌日に減らす」方式を変更 貼り替え役の店長は「ようやく解放される」と安堵
NEWSポストセブン
公開された中国「無印良品」の広告では金城武の近影が(Weiboより)
《金城武が4年ぶりに近影公開》白Tに青シャツ姿の佇まいに「まったく老けていない…」と中華圏のメディアで反響
NEWSポストセブン
女子ゴルフ界をざわつかせる不倫問題(写真:イメージマート)
“トリプルボギー不倫”で揺れる女子ゴルフ界で新たな不倫騒動 若手女子プロがプロアマで知り合った男性と不倫、損害賠償を支払わずトラブルに 「主催者推薦」でのツアー出場を問題視する声も
週刊ポスト
すき家の「クチコミ」が騒動に(時事通信、提供元はゼンショーホールディングス)
【“ネズミ味噌汁”問題】すき家が「2か月間公表しなかった理由」を正式回答 クルーは「“混入”ニュースで初めて知った」
NEWSポストセブン
本格的な活動再開の動きをみせる後藤久美子
後藤久美子、本格的な活動再開の動き プロボクサーを目指す次男とともに“日本を拠点”のプラン浮上 「国民的美少女コンテスト」復活で審査員を務める可能性も 
女性セブン
スシローから広告がされていた鶴瓶
《笑福亭鶴瓶の収まらぬ静かな怒り》スシローからCM契約の延長打診も“更新拒否” 中居正広氏のBBQパーティー余波で広告削除の経緯
NEWSポストセブン
すき家がネズミ混入を認める(左・時事通信フォト、右・HPより 写真はいずれも当該の店舗、スタッフではありません)
《丸ごとネズミ混入》「すき家」公式声明に現役クルーが違和感を覚えた点とは 広報部は「鍋に混入した可能性は著しく低い」と回答
NEWSポストセブン