熟年投稿雑誌『性生活報告』(サン出版)は読者投稿に一切手を加えず、全て実話。コア読者は70歳以上。ネットやDVD全盛時代の官能業界において、今年創刊31年という長寿を誇る。同誌では、創刊30周年を記念して選りすぐりの告白を集めた『昭和の「性生活報告」アーカイブ』(全13巻)を昨年刊行した。担当編集の櫻木徹郎氏が語る。
「選ぶにあたり全誌に目を通しました。やはり戦争物の手記は強烈。脳に刻み込まれた映像が活字化されている。これならネットやDVDのビジュアルのエロに負けないと思いました」
戦時の「息遣い」が伝わる官能手記を紹介しよう。
【「防空壕で隣のおばさんと…」(85歳)第3巻】
“「Sちゃん、ご免ね。こんな夜遅くまで働かせてしまって…」
「なあんだ、おばさん起きてきたの…」
わたしは…上から吊るしていた懐中電灯を入口の方に向け、一瞬ギョッとした。防空壕の入口でしゃがんだ格好になって中をのぞき込んでいたおばさんの太ももと、それに挟まれて太い線状になっているズロースとが、懐中電灯の光の中に入って来たからである。
昭和一九年の夏、私は生まれ育った台湾の台北市で、帝大予科の一年に在学していた。…隣りのおばさんは、四年前に引越しして来て、そのころは確か三十を少し過ぎていたと思う。…
「みんな戦争にいっちゃうのね。仕方ないことかも知れないけれど、心細くなるばかりだわ」…この一言がわたしのつっかい棒を外してしまったようなものである。突如、体の中に強烈な火柱が立ったかと思うと、一瞬のためらいを振りきるように、
「おばさん、おばさんのお乳に触りたい」”
【出征前夜、私は母を抱きました(85歳)第1巻】
“昭和十八年秋、父が死んで十二年、母と二人力を合わせ、田畑を耕して来たけれど、明日は宇都宮の部隊に入り、旬日も経ずして戦地に征く身なのだった。…
「ねえ、本当に心残りということはない?」
「母さん、そりゃ俺だって男だもの、思わないといったら嘘になるか知らない」…私は母の手を探って握りしめていた。
「話は違うけど、母さんが若い頃の村の若い衆は、兵隊検査に受かって一人前になったとして、その帰りに町でお女郎屋に上がって女を知るのが当然とされてたの。それを“筆おろし”って皆がいってたわ…」
「母さん!」…
「今、話したでしょ。今夜は、わが家の若武者の出陣の前夜なのよ。少しでも心残りがないようにして、晴れの門出に立つのが男なのよ…」
私は思いもかけない方向に来てしまった母の言葉に驚いた。でも、うす明りの中の母は、静かな優しい面立ちだった。 ”
筆致こそ穏やかだが、非常下を生き抜いた男の姿がそこにある。櫻木氏が語る。
「一つ忘れてはならないのが、彼らが戦争の生き残りであるという点です。これは“性生活の記録”のみならず、“生還した男たちの記録”でもあるんです」
※週刊ポスト2012年6月15日号