「きんは100シャア、ぎんも100シャア」――そんな名セリフで日本中を沸かせた双子の100才、きんさんぎんさん。あれから20年が経ち、ぎんさんの4人の娘たちもいまや平均年齢93才、母親譲りのご長寿だ。
現在、長女の年子さん(98才)と三女の千多代さん(94才)は同じ家で暮らしているが、二人が朝食をすませると、壁の時計は、そろそろ9時になるところだ。それから台所の片づけ、部屋や風呂の掃除、ゴミ捨て、洗濯と、慌ただしく家事にとりかかる。
98才と94才の主婦は、それぞれ仕事を分担して、今日も家の中を動きまわる。そんなふたりに、いまもエールを送っているのが、こんな“ぎん言”だ。
<自分のことは、自分でせにゃいかん。甘えちゃいけましぇん>
この“ぎん言”が、90才をとうに超えたふたりに“やる気”を起こさせるのだという。年子さんは、洗濯機を操作するのが苦手だが、千多代さんには、洗濯がまるで苦にならない。洗った衣服やシーツなどを、庭の物干しざおに掛けたり、吊したりして干すのだが、この物干しざおが、千多代さんの背丈からすると、ずいぶん高いところにある。
何しろ、少し背中が曲がり始めた千多代さんの身長は、137cmと低い。
「それっ、えーい、やあ!」
つま先立ちになった千多代さんは、ぐーんと背伸びをしながら、真剣な表情で次々と洗濯ものを干していく。見ていると、思わず吹き出しそうになる光景だ。
「ねぇ、千多代さん、物干しざおを、もっと低くすればいいのに」と、お節介心で問いかけてみた。すると、「高いほうが、全身のな、運動になるから、これでいいの」と、すかさず、こんな答えが返ってきた。そこで、東京都健康長寿医療センター副院長・原田和昌さんに、千多代さんの動きについて聞いてみた。
「つま先立ちで背伸びをして洗濯ものを干すというのは、まず、膝が丈夫でなければできません。そしてこれは、筋肉を鍛える運動、つまり、日常生活の中での筋トレをしているわけで、とても合理的で素晴らしいことです」
とすれば、千多代さんは、日常生活で知らず知らずのうちに筋トレをしていることになる。実は、こんなことがあった。千多代さんが92才を迎えたころ。買い物の帰りに、横道から出たところで乗用車にぶつかった。
千多代さん:「バーンとぶっ飛ばされたんだけど、気がついたらな、ぶったまげたよ。車のボンネットの上で、ちょこんと私、正座していただがね。そしたら、その車の運転手がね、もうポカーンとした顔で、突っ立っとっただが(笑い)」
このときも、両膝にかすり傷を負ったが、救急車が駆けつけるということはなかった。やはり、普段からの“筋トレ”の成果なのだろうか。
※女性セブン2012年6月28日号