橋下徹氏はメディアをツイッターなどを使って激しい言葉で批判してきた。通常の記者会見や囲み取材においても、単に質問に答えるだけでなく、記者と議論になることが多い。そうした“バトル”において橋下氏がメディアに突きつけている問題の本質は何なのか。ジャーナリストの上杉隆氏が解説する。
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去る5月8日、大阪市庁に登庁した橋下徹市長に対して行なわれた「囲み取材」において、橋下氏とMBS(毎日放送)の女性記者との間で30分近くにわたって繰り広げられた“バトル”が、ネット上や一部の紙媒体で大きな話題になった。
MBSの記者は、3月に行なわれた大阪府の府立学校の卒業式における君が代の起立斉唱命令について質問したのだが、記者が基本的な事実関係について理解していないと感じた橋下氏は、「起立斉唱命令は誰が誰に出したのか」と逆質問した。
「質問するのはこちらだ」と言って記者はなかなか答えようとしないが、橋下氏が繰り返し答えを求めると、ようやく「(命令の主体は)教育長」などと答えた。だが、記者の答えはいずれも間違いだった(正しくは「教育委員会が」、「全教員に」)。
この他にも、記者が、教育行政における教育委員会と首長の権限分配などについて理解していないと受け取れる質問を繰り返したため、橋下氏は「勉強不足だ」「取材をする側として失礼だ」「とんちんかんな質問だ」などと強い口調で反論した。
後述するように、この記者会見の動画はネット上にアップされており、それを見た一般人からは「橋下の完全勝利」「大手メディア記者の敗北」といった快哉を叫ぶ書き込みが相次いだ。その後、MBSはこの会見をどのように報じたか。
この3日後、MBSの夕方の報道番組「VOICE」の中で15分程度、君が代の起立斉唱問題が批判的に取り上げられた。そこで使われた会見の映像は、橋下氏から批判された記者の質問や記者を批判する橋下氏の言葉が全てカットされ、起立斉唱問題についての橋下氏の強い口調の発言だけがつなぎ合わされていた。
仮に視聴者が番組だけを見たならば、橋下氏がいかにもエキセントリックな人物であり、自らの権限で強権的に起立斉唱を行なわせたという印象を持ったとしてもおかしくない作り方だった。質問した記者の「勉強不足」は隠されている。
実はこれはメディアの常套手段である。何らかの理由で気に入らない政治家、自らと異なる主張を持つ政治家などを貶めるために、平気で恣意的な編集を行なうのである。もちろん、自らの「勉強不足」という恥を晒すことはしたくないので、自分たちの的外れな質問、意味のない質問はネグり、“なかったこと”にしてしまう。
だが、インターネットの発達した今、そうした情報コントロールや隠蔽は通じなくなってきた。
よく知られていることだが、橋下氏の定例記者会見は市のHPで生中継されている。つまり、生の情報=橋下氏の発言を、一切の加工なしに流す「ダダ漏れ」スタイルを取っているのである。しかも、アーカイブとして保存される。「囲み取材」の映像も、市のHPからリンクされたユーチューブにアップされている。そうした映像は過去に遡って、誰もが、いつでも、自由に見ることができる。もちろん、これは橋下氏の方針だ。
これにより、記者会見という取材現場が一般の人に向けて可視化され、メディアによる恣意的な編集が暴露され、メディアの無知、無理解、不勉強などが白日の下に晒されてしまうようになったのだ。
実際、橋下氏はMBSの番組が放送された後のツイッターで、〈僕と記者とのやり取りが全て可視化されていて良かった〉〈番組見たらびっくりしたよ。記者とのやり取りは全部カットされて僕は頭のおかしい市長そのもの〉などとツイートしている。
※SAPIO2012年6月27日号