中国では今春、大きな事件が二つ起こった。一つ目は薄熙来事件であり、もう一つは陳光誠事件だった。この二つの事件に大きく関わっているのが、中国共産党中央政法委員会だ。党政法委は社会の治安維持を担当し、警察や検察、裁判所という司法部門のほか、武装警察や人民解放軍とも深いつながりがある。党政法委はどんな権力を握っているのか、チャイナウォッチャーのウィリー・ラム氏が解説する。
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党政法委の持つ大きな権力を示したのが盲目の人権活動家で弁護士である、陳光誠氏の渡米事件だ。2005年6月、「一人っ子政策」により堕胎が強制される実態を暴き、山東省で集団訴訟を起こした陳氏は、「故意の財産破壊及び人を集め交通を乱した罪」で逮捕され、2006年、懲役4年3か月の判決を受けた。釈放後も自宅に19か月間も軟禁状態だったが、4月27日に脱出、5月20日に渡米を果たした。
中国の社会治安維持費は年間7017億元(約9兆1221億円)と国防費よりも多いのはよく知られているが、政法委が山東省で陳氏一人の監視のために費やした予算は昨年1年間だけで6000万元(約7億8000万円)にも達した。
さらに、中国の31省・自治区・直轄市ではナンバー2の党委副書記が政法部門を担当するほか、チベットやモンゴル、新疆など少数民族居住区では数十万人単位の内通者を配下に持つなど、中国の隅々まで「政法委ネットワーク」を張り巡らしており、その権力は大きく、かつ深刻だ。
改革開放後の中国は、大きく変容したように見えるが、反体制活動家や中国共産党政権の転覆を図る指導者が一夜にして姿を消す「警察国家」であることは建国以来60年以上も変わっていない。二つの事件は、中国が本来もつ暗黒面を思い起こさせ慄然とさせるのに十分だった。この政法委とそのトップである周永康・共産党常務委員の今後の動向には注意が必要だ。
●翻訳・構成/相馬勝
※SAPIO2012年6月27日号