大阪維新の会を率いる橋下徹・大阪市長の勢いが止まらない。維新政治塾に集まった3000人と小泉チルドレンとの共通点を指摘する者もいる。だが、小泉氏の総理首席秘書官を務めた飯島勲氏は、両者は大きく異なると言う。ジャーナリストの須田慎一郎氏が聞いた。
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須田:橋下市長の問題点を発見してすぐに行動する政治が有権者から大きな支持を受けている。
飯島:確かに、これまでの府知事、市長時代を通じての橋下氏の実績には一定の評価をしていいだろう。しかし、それらはいずれもマイナス部分の是正だ。言ってみれば、「叩くこと」への評価だ。繰り返しになるが、より重要な大阪経済をどうするのかという問題には着手していない。
小泉元総理は小さな政府を目指したが、それだけでは日本経済は沈没してしまう。明日のことをどうするのか、それを語らなくてはいけない。
須田:「維新の会」を中心として、国政への進出に意欲を見せていることについてはどう評価するか。
飯島:大阪市は生活保護受給者が全国でダントツのワースト1、経常収支も政令指定都市の中でかなり悪い方だ。大阪府も失業率が長く全国ワースト3だ。橋下市長も松井一郎・府知事も、やるべき仕事が山積している。橋下市長が大阪市長選で掲げた府と市の「二重行政の廃止」もまだまだこれからだ。これらに真剣に取り組むならば国政進出は不可能だ。まずは大阪市、大阪府でやるべきことをやってからだろう。
仮に国政に打って出るのであれば、外交、安全保障、経済の3本柱について、何をするのか、どうしたいのか表明があってしかるべきだが、それも今までのところ具体的な言及はない。「橋下」の看板を使って実績と経験のない人を国会議員にするなどもってのほかだ。
須田:維新の会は全国で300人を擁立すると言われている。彼らと、郵政選挙で大量に誕生した小泉チルドレンとの類似点を指摘する声もある。
飯島:小泉郵政解散の時とは決定的な違いがある。当時、小泉総理は、政府の財政投融資に大変な無駄があるという問題意識から自民党総裁選で郵政民営化を掲げて総裁に就任した。ところが、いざ郵政民営化に着手すると、それに反対する議員が自民党内から続々と出てきた。これではおかしな話になる。だから国民の信を問うために衆議院を解散して、すべての選挙区で「民営化賛成」の議員を擁立する必要があった。
そして、誰を擁立するかについては、オールジャパンでどこでも通用する人材をピックアップした。だが、橋下市長の集めたのは素人以下だ。
本来、国会議員とは有権者の声に真摯に耳を傾け、地道な積み重ねで当選するものだ。自分の名前では当選できない人間が「橋下人気」だけで国会議員になろうとしている。
橋下市長は「実務」を知っているかどうかを非常に重視しているようだが、その意味でも、維新政治塾に集まった3000人のうちのほとんどが不適格だろう。
※SAPIO2012年6月27日号