厚生労働省は6月8日、「がん対策基本法」の見直しを行ない、初めて喫煙率の具体的な数値目標を発表した。
そもそも「がん対策基本法 」は、日本人の死因1位であるがんの死亡者の減少(20%減)や、がん患者および家族の苦痛の軽減を目的として、平成18年に策定されたもの。厚労省は、策定から5年が経過した今年、同法の見直しを行ない、その一環として「平成34年度までに成人喫煙率を12%にする(平成22年調査では19.5%)」「平成32年までに職場での受動喫煙ゼロ」など、初めて具体的な数値目標を盛り込んだのだ。
しかし、喫煙率と肺がんの相関関係を見てみると、日本人の成人喫煙率は、平成元年の調査で男性が55.3%、女性が9.4%だったものが、平成22年には男性32.2%、女性8.4%まで減少。一方厚生労働省の資料 によると、肺がんの死亡者数は2万人台だった1980年代に急速に増加し、1999年には胃がんを抜いて、がんの部位別死亡者数1位に。その後も肺がんによる死亡者数は増え続けており、2007年にはおよそ6万6000人が肺がんにより亡くなっている。
過去40年間で成人喫煙率は明らかに低下しているのにもかかわらず、肺がんの死亡率は増加の一途を辿っている。このことから、喫煙の影響があらわれるとされる20~30年というタイムラグを考慮しても、喫煙率と肺がんとの関連性には疑問の余地ありと考える向きもある。
政府はこれまでにも、国民の健康に関して様々な数値目標を設定してきた。たとえば、2008年から開始された特定健診・特定保健指導、通称「メタボ健診」について政府は、「(健診によって)2015年度までに脳卒中、心臓病、糖尿病などの生活習慣病とその予備軍を25%減少させることで、年間2兆円の医療費が削減できる」と述べている。
しかし、この健診については、“メタボ”の基準となる腹囲測定の精度に疑問の予知が生じること、逆に腹囲が基準以内であれば、血糖値や血圧に問題があっても見逃されてしまうことなど、数々の問題点が専門家によって指摘されており、健診受診率が低い場合に市町村や健康保険組合などに課せられる“ペナルティ”に関しても、効果のほどが疑問視されている。
健康とはジャンルが違うが、震災後の電力不足騒ぎでも、15パーセント節電という数字が掲げられ、金科玉条のようにそれを遵守することが強制される風潮で一斉停電までさせた揚句に、その必要があったかどうかについては疑問が残ったままだ。
つまり、このテの数値目標騒ぎはいつも、現場のことがわからぬ政治家が、「目標を掲げること」が先にありきで数値を定め、そのあと目標を達成するために他のことが決まっていくという図式なのだ。
厚労省は今回の喫煙率の数値目標設定について、「個々人の選択に国が介入し、禁煙を希望しない人にまで禁煙を強制するものではありません」と述べているが、因果関係が極めて不明瞭な状況にありながら、がん患者削減に“たばこ”という一商品のみを“利用”することに関しては、改めて議論が必要なのではないだろうか。政府主導による「先に数値ありき」の有用性を含めて、吟味されるべき課題だろう。