2013年度の就活で改訂・倫理憲章はちゃんと守られているのか。各種データを元に分析すると、学校間格差がくっきりと浮かび上がる。誰のための、何のための憲章改訂だったのか、作家で人材コンサルタントの常見陽平氏が解説する。
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2013年度新卒採用の最大のトピックスと言えば、倫理憲章の改訂でしょう。採用広報活動のスタートが大学3年生の12月1日になりました。選考開始は4月1日となったので、実質短期化しました。果たして、今回の改革は学生にとって良いものだったのでしょうか? 企業は倫理憲章を守ったのでしょうか? 最新のデータや事実に基づきレポートしたいと思います。
結論から言うと、今回の倫理憲章改訂は、上位校の学生と大企業にとっては素晴らしいものだったと言えるでしょう。やや皮肉を込めて言うと「いい学生」と「いい会社」(こういう言い方は嫌いなのですが、敢えてそう書きます)を中心に採用活動というのは進んでいて、普通の学生は差別、区別されていることが可視化されたとも言えます。
HR総合調査研究所(HRプロ株式会社が運営)が発表した「2013年度新卒採用中間総括調査」によると、4月下旬時点での内定率(文系)は旧帝大クラスにおいては実に71%、早慶クラスは73%です。しかも旧帝大クラスの40%、早慶クラスの36%の学生は2社以上から内々定が出ています。
それに対して、中堅以下の私大に通う学生は約70%が内定ゼロ。昨年は震災などがありましたし、今年は倫理憲章改訂があったので、単純比較はできませんが、それでも上位校は内定率が上がり、中堅以下の大学は下がるという傾向がきれいに出ました。
なお、内定率のデータは調査方法や調査主体により大きく変わるので、リクルートやマイナビが発表したデータとはずれており、やや高めに出ていることをお含みおきください。
同調査ではこの3年間、採用活動においてターゲット校を設定しているかどうかを調査しています。2011年卒では33%の企業がターゲット校を設定していると答えたのですが、年々上昇しており2012年卒は39%、そして今年の4年生の代である2013年卒においては48%の企業がターゲット校を設定しております。
しかも、ターゲット校を設定している企業のうち、約8割は20校以内に絞っています。従業員数300名以下の企業に関しては10校以下に絞っている企業が実に70%。新しいスケジュールが影響を与えていることは言うまでもないでしょう。
メディアでは最近の学生は中堅・中小企業志向だと報じられます。実際、就職情報会社各社が発表するモニター調査などでも中堅・中小企業志望者が増加している傾向は見られます。ただ、フタを開けてみると、スタート時はますます応募は大手に集中。
レジェンダ・コーポレーションとジョブウェブが昨年12月に行った調査では、大手企業志望者は65.9%と、対前年比で8.2ポイントアップしています。大手の選考スケジュールが早いということもありますが、スケジュールの変更はむしろ、初期段階においては大手志向を高めたのではとも言えるのではないでしょうか。
なお、学生は口では「中堅・中小企業も視野に入れる」と言うのですが、「じゃあ、どこを受けるの?」と聞いたら、まともに答えられないものです。無理もないです。出会う場もないですし、お墨付きがないと安心できないものです。
なお、スケジュール変更により、今のところ学生のエントリー数や説明会参加数は昨年より減少傾向です。マイナビのモニター調査によると5月時点での学生の累計平均エントリー社数は69.0社であり、前年よりも14.3社減となっています。なお、このエントリーというのは、実際はプレエントリーであり、応募ボタンを押したレベルのものも含まれています。
これらのデータをもとに言うならば、スケジュール変更により、上位校の学生は短期、早期に決まっていったのに対し、その他大勢は……。なかなかかわいそうですね。
なお、新しい倫理憲章ですが、企業は実に上手に守ったふりをしました。関西の有名私大のキャリアセンター担当教授はこう語ります。「ゼミの学生は3月にとっくに内々定が出ていましたよ・・・」。そう、大手で3月に内定を出した企業の情報は私にも入ってきました。メディアにリークしまくり取材に行ってもらったのですが、「そんなことはない」と無視されました。選考開始は4月1日からと言いつつ、その日に内々定を出した企業も。さすが、大手企業のエリート社員は仕事がはやいですね。
倫理憲章は罰則規定もなければ、ちゃんと守っているかどうかの調査規定もありません。正々堂々と戦うと誓った高校球児が暴力や喫煙、女子マネと交際、ドラッカーを無理やり読ませるなどしているのと全く一緒のことが起こるわけですね。
というわけで、悲しいことに就活の茶番は継続中です。はい。