4人に1人が生活保護受給者といわれる大阪市西成区のあいりん地区。ここで「保護」を受けている人はどこで、何をしてきたのか。いま、どう暮らしているのか。作家の山藤章一郎氏が報告する。
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6月の雨のあいま、その店の前を、当方と、次の3人組が通りがかった。西成区で生活保護を受けている60代のふたりのおっちゃんチョキ氏、パー氏と、グー姐さんである。
これから、同じ区内の〈かっぱ寿司〉へ一年半ぶりの贅沢に行く。おっちゃんたちはサンダル、姐さんはビニール靴。ゆっくり、路地から路地、線路、国道をまたいで行く道すがらのインタビュー。
チョキ氏:「玉出、安いわな。5食パックサッポロ一番塩ラーメン298円や。毎日、それにキャベツ入れて食べてる。100円のかき揚げで、うどんの時もあるがな。皿ないんで、フライパン、鍋から直接や。しかし今日は、回転寿司。めったにないごっつぉですわ」
歯がないパー氏:「わし、結核で…働けん……世間さまに申しわけ立たん…駅の掃除…2000円な」。何をいってるのか、分からん。
グー姐さん:「30年ほど前に離婚して。和食と中華のホール係で、働いてきました。けど、血圧低いしC型肝炎。毎日病院通いです。胆のう手術もしましてな。区に相談したら、ほな生活保護受けえというてくれまして。切り詰め切り詰めの、生活です。
昼ごはんは食パン1枚に決めて。マーガリンつけて。夕飯は、いまはナスビやね。〈玉出〉で4本200円、麻婆ナスの素も買うてきて2回分つくれます。
夕飯終わったら、安売り狙うてまた〈玉出〉に行きます。7時くらいから値引き始まるの。肉、魚に半額シール貼ってある。
5枚切り食パンも、水、土曜は、半額の125円になるから、2斤買うてきて冷蔵庫に保管してな」
おっちゃんたちも姐さんも、毎月1日に12万円の〈生活保護費〉が西成区から振り込まれる。 63歳のチョキ氏は、大阪に生まれて育ち、生涯独身である。中央市場で食品配送をし、40歳から日雇いの建築現場に出た。
「その時々で、景気のええ仕事選んできて」50歳のとき、昔の交通事故・脾臓破裂の後遺症が出た。左脚が腫れ、歩けない。新大阪駅に近い路上、ナンバープレートをはずした車の中で寝食した。期限切れの弁当でしのいだ。
病院で、生活保護を勧められた。脚が回復してきて、1日3500円の公園清掃に就いた。毎月6万円になった。足りない6~7万円は「福祉に入って」息をついだ。いまは、清掃仕事もない。12万円を支給されている。
おっちゃんたちも、姐さんも「生活保護を受ける」というコトバは使わない。「福祉に入る」という。チョキ氏「1日1000円の生活が目安やね。朝6時に起きて、〈玉出〉で買うてきたひとつ100円、たまに半額になる菓子パン1個に牛乳つけたんが朝飯。それから図書館で借りてきた本読む。五木寛之が好きやね」
※週刊ポスト2012年7月6日号