民主、自民、公明の3党は消費税を2014年4月に8%、翌2015年10月に10%に引き上げる増税案に合意、法案成立に向けて大きく動き出した。増税で日本の財政事情は好転するのか。
本誌は第一生命経済研究所の主席エコノミスト・永濱利廣氏に、「消費税が10%にアップした場合の日本経済に与える影響」の試算を依頼した。それによると、増税3年目で日本経済全体の生産額は11兆6670億円、GDPは6兆5600億円押し下げられる結果となった。
これほどの痛みに耐えれば税収が増えて財政が健全化するならまだいい。それも望めないのである。理由は2つある。1つは「消費税逃れ」が起きることだ。
個人や企業は、並行輸入など海外での商品やサービス調達を増やし、消費税を極力避けると考えられる。1989年の消費税導入時に国際宅配便フェデラル・エクスプレスの扱いが前年比5割増になったことを考えても、増税が海外調達を加速することは実証済みだ。
また、オークションによる個人売買には消費税はかからない。日本最大手のヤフーオークションの年間取引高はすでに6869億円に達している。ヤフーのシェアは7割程度なので、現在のオークション市場は1兆円規模と考えられ、消費増税で市場がさらに拡大すれば、消費税を介さない商取引が無視できない規模になってくる。税収減もさることながら、公平負担の観点からも疑問は多い。
税収が増えないもう一つの理由を、経済評論家の小野盛司氏が指摘する。日本経済新聞の経済シミュレーションシステム「NEEDS日本経済モデル」を使った消費増税の影響試算の結果は無惨だった。
「景気の悪化で、消費税の税収は1年目で11兆2800億円あっても、5年目には9兆9500億円に下がる。さらに、それに伴い5年目には法人税が2兆5000億円減、所得税が2兆1100億円減となる。政府支出にも消費税は課税されるので、実質的な財政改善額は5年目でわずか2兆5500億円にすぎない」
ほとんど税収が増えないと試算されているのだ。一方、GDPの減少により、5年目に失業率は1.65%増加するという。
「そこから算出される倒産件数は3300件、生活保護も99万人増加し、1.7兆円の生活保護費増加が予測できます」(小野氏)
他にも失業者対策などで歳出は増える。かくして財政はむしろ悪化すると予想されているのだ。
※週刊ポスト2012年7月6日号