地下鉄サリン事件の殺人容疑などで逮捕された元オウム真理教信者・高橋克也容疑者を追い詰めたのが、公開された防犯・監視カメラの映像であったことは間違いないだろう。単に姿形を映し出すだけでなく、表情、所作、態度まで伝える映像だった。カメラは現在どんな状況にあるのか。その数や設置の状況について、ジャーナリストの菊地雅之氏がレポートする。
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現在、日本にはどのくらいの防犯・監視カメラが設置されているのか? この答えを知るのは、意外に難しい。
警察が「街頭防犯カメラ」として設置しているのは16都道府県で791台(今年3月末時点)。一番多いのは大阪府の204台である。警視庁管内においては新宿区歌舞伎町、港区六本木など5か所の繁華街に185台が設置されている。東京では、撮影された映像は所轄警察署と警視庁本部に送信され、常時モニター画面に映し出されている。
また、高橋容疑者は「電車は使わずにバスなどを利用した」と供述しているというが、国土交通省によると、駅構内のカメラ台数は昨年3月末時点でおよそ5万6000台にもなる。
日本防犯設備協会がまとめるところでは、周辺装置まで含めた日本の防犯カメラ市場規模は1360億円(2010年)。「売れ筋の防犯カメラは1台あたり7万~10万円程度」(メーカー関係者)とされ、単純計算で年間100万台以上売れていることになるが、近年は価格競争が激しく、単価の平均値は推計しづらい上、これには買い換え需要や周辺機器も含まれているから、新規設置件数は割り出せない。
また、公的な機関と違い、民間企業などは防犯カメラの数や、そもそも設置の有無についても口を閉ざす。“お客様を監視している”という誤解を招きかねない、といった意識があるようだ。
2008年には、防犯カメラのメーカーが生産・出荷に関する統計資料から「日本の監視カメラ総数は約350万台」という推計を導き出し発表したことがあるものの、「当時から数はかなり増えているはず」(業界関係者)という声が一般的である。防犯アナリストの梅本正行氏が言う。
「国内にある防犯カメラの台数は誰も把握していないはずです。経産省がまとめるメーカー統計はありますが、輸出品を含んでいて、国内の出荷・販売台数はわからない。さらに、近年は輸入品の防犯カメラが多数導入されている。
例えば、坪あたりで防犯カメラが最も多く設置されているのはどこだと思いますか? それはパチンコ店です。そこでは海外製の安い防犯カメラが多く、実態がわからない。大手のパチンコ店は機能のよい国内メーカーのものに替え始めているので、メーカー側も徐々に様子がわかるようになっているが、それでも全貌はわからない。また家庭用にホームセンターで売っているものは東南アジア製が多く、これらもなかなか数字は把握できません」
数百万台は存在し、さらに急増する監視カメラ。従来は万引き防止や空き巣被害などへの防犯効果を期待して設置されるケースが多かったが、今はマンションのエントランスやエレベーターはもちろん、コインパーキングや飲料の自動販売機などにまで設置されている。タクシーや自家用車につけられている車載カメラまで含めると、都会でカメラに映らないように生活するのはほぼ不可能だ。
そうした膨大な数の民間のカメラは今回の高橋容疑者のケースが証明するように、いざとなれば捜査機関が犯罪捜査に利用する。「他の証拠品と同様、民間の防犯カメラの映像も刑事訴訟法の規定に基づき提出を求めることができます。任意で提出を求めて応じてもらうケースがほとんどだが、もちろん令状を取って提出を求めることもできる」(警察関係者)という。有事には数百万台の監視カメラが捜査機関の“目”となるわけだ。
※SAPIO2012年7月18日号