明日7月1日から、牛レバーの生食、いわゆるレバ刺しが禁止される。飲食店などが客に提供すれば2年以下の懲役か200万円以下の罰金という罰則付きだ。先月この方針が明らかになるや、「個人の自由を罰則で禁止するのか」「今まで食べられてきたのになぜ」といった、大きな疑問がネット上に相次いだ。そこで、それら「素朴な疑問」を、厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課の担当者にぶつけてみた。(聞き手・文=ノンフィクション・ライター神田憲行)
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--今まで自由に食べられたものが罰則付きで禁止というのはやりすぎではないでしょうか。
厚労省:ご意見はとても理解できます。しかし昨年4月のユッケ事件(富山県の焼肉店でユッケを食べた客が食中毒にかかり、5人が死亡した)を、国民の食品衛生・公衆衛生を預かる省として重く受け止めざるを得ません。原因となった腸管出血性大腸菌を除去する方法が見つからず、しかも重い食中毒症状を引き起こすことがわかった限りは、安全性を確保できる方法が見つかるまでは禁止すべきだと考えました。
--資料によると厚労省は平成10年から、幼児やお年寄りの生食を控えるようにアナウンスしてきました。今回の禁止はその周知徹底が十分ではなかったことが背景にあると思うのですが、禁止するより周知徹底をより強化する方法はなかったのですか。
厚労省:生食について焼肉店など業者に対する管理指導は自治体が行う自治事務であり、厚労省は各自治体に通知を出す立場です。残念ながら自治体の管理指導にバラツキがあり、禁止という手段になりました。
--しかし昨年中毒死したのはユッケで、今回禁止になるのはレバ刺しです。しかも統計によるとレバ刺しで死亡事故は起きていません。
厚労省:その通りですが、腸管出血性大腸菌が多いのが牛の肝臓なのです。レバ刺しを食べての死亡事故は起きていませんが、起きてもおかしくない状況で、人が死ぬ前に禁止すべきだと考えました。
--腸管出血性大腸菌は他の食中毒を引き起こす菌とは違う特徴があるのですか。
厚労省:たとえば腸炎ビブリオだと感染するのに10の6乗個の菌が必要なのに、腸管出血性大腸菌は2から9個というきわめて少ない菌で感染します。つまりレバーの鮮度は関係なく、新鮮なレバーでも感染するということです。管理を徹底しても取り除くことは不可能で感染すると重症になること、さらに人から人への二次感染(接触感染)があったことも2例報告されています。
--危険ならば7月1日を待たずに即禁止にすればいいのでは。
厚労省:食品衛生法の手続きに時間が掛かりました。
--鳥や豚のレバーは今後どう考えていますか。
厚労省:食中毒と菌などの事例と情報が整理でき次第、検討することになっています。
--今後レバ刺し禁止が解かれる可能性はありますか。
厚労省:「安全に食べたい」というパブリックコメントをいただいています。厚労省は業者を所管しているわけではないのですが、今後は安全に食べていく方法を調査研究していきたいと考えています。
今回の措置について、私は当初「長く食べられていたものを罰則禁止というのはやり過ぎではないか」と考えていた。しかし厚労省とのやりとり、公開されているデータを読むうちに、「やむを得ないのではないか」という考えに傾いている。大きな理由は、二次感染も起こりえる、ということだ。自分のリスクで食べて食中毒になるならいいが、他人を巻き添えにする可能性がある。それが幼児やお年寄りなら死亡するかもしれない。そこまでして食べなければいけないものなのか。みなさんはどう考えるだろうか。