民主、自民、公明の3党は消費税を2014年4月に8%、翌2015年10月に10%に引き上げる増税案に合意、法案成立に向けて大きく動き出した。
だが、野田佳彦首相はまた忘れているのだろう。2005年1月の衆院本会議で、1997年の消費税引き上げを採り上げ、「風邪から治りかけていた日本経済を肺炎にしてしまった」と小泉純一郎・首相(当時)に詰め寄ったことを。あれから7年、その野田首相がさらなる消費増税で日本経済を肺炎から“死”へ誘おうとしている。
消費税を10%に引き上げても、本当に政府が主張するように経済への影響は軽微で、税収が増えて日本の財政は健全化するのか。
本誌は第一生命経済研究所の主席エコノミスト・永濱利廣氏に、「消費税が10%にアップした場合の日本経済に与える影響」の試算を依頼した。永濱氏が採用したのは内閣府が公表している「短期日本経済マクロ計量モデル」と総務省の「産業連関表」を用いたシミュレーションである。
それによると、増税3年目で日本経済全体の生産額は11兆6670億円、GDPは6兆5600億円押し下げられる結果となった。政府の計量モデルでの試算だから、これでも増税するべきだというなら、政府にきちんと説明を求めたいものだ。
個別の業界への影響では、「飲食料品」、「農林水産業」、そして「不動産」がそれぞれ2%程度の減少。永濱氏はこう分析する。
「家計消費への依存度が高い飲食料品や農林水産業に大きな影響が出る。私自身は財政破綻を避けるためには消費増税は必要と考えていますが、増税のしわ寄せが、中小企業や農家に集まることは確かです」
経団連は増税礼賛だが、財界にも不安の声は多い。飲料業界では自販機での販売が売り上げの大きな部分を占める。ある飲料メーカーの社員はこういう。
「消費税が導入された1989年には缶飲料の価格を100円から110円に値上げしたが、コインを2枚入れる手間が嫌われ、売り上げが急激に落ちました。5%にアップして120円になったときも売り上げが落ちた。今回はコインの枚数がさらに増えるので、価格転嫁せずに企業努力でカバーする予定ですが、深刻なコストカットが必要になります」
農林水産業では、零細農家に消費税は重くのしかかる。福島県会津若松市の農家はこう不安を口にする。
「増税で買い控えや安い輸入米などへのシフトが起き、国産が売れなくなる可能性がある。また、1000万円程度もするトラクターなど農家の設備投資費はすべて個人にかかってくる」
また、流通側から消費税分の価格を引き下げよという圧力が当然かかるので、経営は苦しくなるばかりだ。
※週刊ポスト2012年7月6日号