ピルをめぐる状況は、大きく変わっている。副作用がほとんどなく、生理痛や不調、にきび、更年期症状などの解消にも効果が実証されている。
だが、日本でのピルの普及率は欧米に比べて非常に低く、わずか3%。それには低用量ピルの国内での認可が遅れたことも影響している。
そもそもピルが初めて承認されたのはアメリカで、1960年にさかのぼる。1964年には日本でも、生理不順などの治療薬としてピルが登場した。
しかし、1960年代のピルは女性ホルモンの含有量が多く、血栓症などの副作用が起こりやすいのも事実だった。しかし、その後、少ないホルモン量でも効果が発揮できるピルが開発される。
エストロゲンの量が50マイクログラムのものを「中用量ピル」、それより多いものを「高用量ピル」、少ないものを「低用量ピル」と呼ぶが、1970年代にはすでに世界で低用量ピルが主流となった。この低用量ピルの出現により、前述の副作用も可能な限り抑えることができるようになり、胎児への悪影響などの事例も現在まで報告されていない。
ところが、日本で低用量ピルが認可されたのは1999年で、諸外国よりはるかに遅かった。そこには日本人のピルに対する偏見があったと日本産科婦人科学会前理事長で慶応大学大学院医学研究科産婦人科学教授の吉村泰典さんはいう。
「ピルをのむと妊娠の心配がなくなるから平気でセックスをするようになり、性が乱れるといった、非常に誤った考え方があったからです。厚労省がピルを承認したときも、“ピルを解禁すると性が乱れる”という議論がありました。これには、日本が男性社会であることの影響もあったかもしれません」(吉村さん)
だが、こうした偏見をもつのは男性ばかりではない。ある20代女性は、母親世代のピルに対する無理解に、こういってため息をついた。
「生理痛があまりにもひどいので、婦人科に通ってピルを処方してもらったら、母に“なんてふしだらな”といわれ、嫌な顔をされてしまいました」(20代女性)
女性でも、世代が上になればなるほどピルへの抵抗感が強い傾向が見られる。
「日本でピルを服用している人のうち、避妊目的の人はたった20%。80%は違う理由、生理痛などの症状をやわらげるためにのんでいるんです。偏見をなくして、女性のQOLを高めるためのものとして、ピルをとらえてほしいですね。どんな薬にもリスクとベネフィット(効用)があるけれど、ピルはベネフィットが大きい割にリスクが少ない、珍しい薬なんですから」(吉村さん)
※女性セブン2012年7月12日号