今年6月、警視庁が摘発した李春光・中国大使館一等書記官事件。表向きの理由は「公正証書原本不実記載等」の容疑だが、「中国人スパイ事件の象徴」として注目を浴びた。とりわけ、現政権の民主党と「中国人スパイ」とのつながりに国民は驚きを隠せなかった。さらに民主党にも多くの出身者がいる松下政経塾にも在籍していたことにも波紋が広がっている。ジャーナリスト・山村明義氏が国会議員の中にも入り込んでいた中国人スパイについてレポートする。
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今回の中国人スパイ事件は「政界の登竜門」と呼ばれる松下政経塾OBには衝撃を与えた。事件発覚直前に中国へ帰国した李容疑者は、政経塾20期の海外インターンとして1999年に入塾していたからだ。
創立者の松下幸之助の声が絶対的な影響を与える松下政経塾では、「これからはアジアの時代だ」という理念により、1993年の宮田義二塾長時代から代々、中国社会科学院の推薦でインターンを受け入れるようになった。
1991年、松下政経塾は中国社会科学院日本研究所との間で「友好交流と研究・活動協力に関する議定書」を結んだ。そして1993年9月、北京で行なわれた2回目のシンポジウム「国際新秩序の中の日中関係」に、松下政経塾側は当時の塾生を含む44名の派遣団を送っている。
政経塾関係者の意見を総合すると、1990年代後半から2000年代の前半にかけ、「政経塾全体の雰囲気が、次第に親中的になった」という。中国人の研修は約半年間で、過去19人の同院出身の中国人卒塾生が巣立っている。
「通常松下政経塾の海外インターンには、履歴書を出させるだけで、その身元を調べることはない。日本の地方自治や住民投票を熱心に研究していたというし、彼がスパイとは思えなかった。彼が総参謀2部出身とは知りませんでした」と同塾出身者は明かす。
ところが、中国人民解放軍出身のジャーナリスト・鳴霞氏は、こう指摘する。
「今の中国社会科学院には、スパイを全世界に送る中国人民解放軍総参謀部出身の人間が間違いなく入っています。その身元調査すらしない松下政経塾には、そういう危機意識がないように映ります」
現在の民主党政権は、野田佳彦首相を始め、玄葉光一郎外務大臣、松原仁国家公安委員長、前原誠司政調会長ら松下政経塾出身者が政府と民主党の要職を占める。さらに現在の駐日中国大使館の公使・韓志強も松下政経塾海外インターン出身である。唐家セン元外相の秘書官を務めた彼が昨年7月に就任した際には、中国側の「松下政経塾シフト」と呼ばれたものだ。
別の外事公安関係者はこう断じる。
「李は、政治や外交の世界では“ペルソナ・ノングラータ(素行の悪い外交官)”であってスパイじゃない、と指摘されるが、軍の総参謀2部出身の彼は、役回りとしてはいわば表のプレイヤーで、裏のプレイヤーは他にいる。松下政経塾は、その表のプレイヤーを育成する温床となっていたわけだ」
民主党議員には、身元調査で誰が「表」で、誰が「裏」のスパイかも把握できない。事実、彼ら自身からも「民主党議員と接する中国人の数が多すぎ、今では正直、スパイを警戒する感覚すらない」という声さえ漏れるほどだ。
※SAPIO2012年7月18日号