西川文二氏は、1957年生まれ。主宰するCan! Do! Pet Dog Schoolで科学的な理論に基づく犬のしつけを指導している。その西川氏が、「服従ポーズ」について解説する。
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『大脱走』って映画、見たことあります? ドイツ軍に捕虜としてとらえられた連合軍の兵士たちが、大規模な脱走を企て実行する。スティーブ・マックイーンら有名どころが、わんさか出てくるアレ。私なんか何度見たことか。あの映画でマックイーンをはじめ捕虜たちは、両手を上げる「降参」のポーズを、何度見せたことか。
両手を上げるのは、武器を持っていない、または武器に手をかけることはない、さらにお腹という無防備な場所もさらしてる、ってことで、戦意がないことを相手に伝えることができる。
さて、捕虜たちはこの両手を上げる「降参」のポーズを取ったその後、相手のいうことを何でも聞いたか? 相手に服従したか? そう、してないんですな。まぁなんといいますか、その場しのぎ。
何がいいたいのかって? 飼い主が叱った時に、イヌがお腹を見せるのも、ほとんどがコレと同じようなもの、ってことをいいたいのですわ。お腹を見せるポーズ、行動学では「服従のポーズ」なんて定義されていて、犬のしつけの本なんかにも、よくそう書かれているけど、勘違いしちゃいけませんぞ。
あのポーズを見せたとしても、なんでもかんでもあなたのいうことを聞く、すなわち服従をするわけじゃない。
飼い主は「反省している」なんて勘違いして、怒りを静める。犬は「嫌なことがなくなる行動の頻度を高める」。かくして、「自らの身に不都合なことが起きそうになる」と、このポーズをすぐにとるようになる。ただ、それだけ。
反省も服従もしていないってことですわ。それが証拠に、しばらくすれば、以前叱られた行動を懲りずにまた取る。そう、マックイーンたちのようにね。あぁ、蘇る名シーンの数々……DVDでも借りに行こうかな。
※週刊ポスト2012年7月13日号