【書評】「『日本国破産』を生き抜くための資産防衛術」(津田倫男/阪急コミュニケーションズ/1470円)
【評者】森永卓郎(エコノミスト)
このまま財政赤字を削減できなければ、日本国債は暴落する。増税を進めたい政府は、そう言って危機感を煽っている。確かに、あと十数年いまのような赤字を出し続けたら、国債価格は下がり始めるだろう。
ただ、国債には、もっと間近の危機が待ちかまえている。景気回復だ。景気が回復して、高い金利の国債が発行されるようになると、いまの1%未満の金利しかついていない国債は値下がりする。つまり不況が続いても、景気が回復しても国債価格は下がるのだ。本書で言う「国債バブル」という表現は、その意味で正しい。
国債の価格が下がると、貸出先がなくて大量に国債を抱え込んだ銀行にも損失が出るから、預金さえも絶対に安全とは言えない。かと言って、不況で国内株式は安くなるばかりだし、欧州債務危機の深刻化で、海外資産も安全とはいえない。そうしたなかで、我々はどのように資産を守ればよいのか。
本書の一番よいところは、著者が正直だということだ。著者の結論は、資産運用の対象を誰かに任せてはいけないということだ。自分で勉強して、自分でリスクを判断して、自分で責任を取りなさいと著者は言うのだ。
だったら、本書を読む意味がないと思われるかもしれない。そうではない。著者は、何を勉強すればよいのか、どのように投資の判断をすればよいのかという基準を示してくれるからだ。
著者の指摘で特に重要なのは、最近銀行や証券会社が売り出している特約付き金融商品のリスクだ。こうした商品には、金融派生商品が組み込まれていて、一歩間違えると、大きな損失が投資家に降りかかる。
だから、銀行や証券会社の言うことを鵜呑みにするのではなく、金融商品の仕組みを理解し、リスクとリターンを上手く組み合わせる形で、自分自身で資産の運用構成を決める必要があるのだ。
本書に書かれている金融派生商品の説明は、一番シンプルで分かりやすいものだ。これが全く理解できない人は、資産運用そのものをあきらめた方がよいと思う。
※週刊ポスト2012年7月20・27日号