「日陰の豆も、弾ける時分には弾けるてぇもんだ」とは、古典落語「文七元結」に出てくる名台詞。どんな地味な娘でもいつしか色気づき、恋人を作ってしまう――娘にはいつまでも側にいてもらいたいと願いつつ、それが叶わないことを半ば諦めている父親の言葉だ。貞操観念の低かった江戸時代でさえ、父は娘を思い、心を痛めていた。今の父親たちはさらに大変なようで。
都内の会社役員Aさん(65)もそんな父親の一人。Aさんは苦笑まじりで告白する。
「娘はいつか、どこかの男とセックスする。それは間違いない。せめて幸せな初体験であってほしい。そう頭ではわかっていても、現実となると、怒りで震え、心千々に乱れるのが父親ってもんです。私も愛娘が処女を失ったと知った時はショックでした」
ちなみに、2008年実施の東京都幼・小・中・高・心性教育研究会の調査によると、中3までに体験を終えた女子は実に10%。高3ともなれば約半数が性交渉をもっている。経験率が急上昇するのは中3から高1にかけて。ことに夏休みはセックスの誘惑が多い。Aさんの娘が処女を喪失したのは高校3年の時だった。
「私が40歳で初めて授かった子だけに、眼に入れても痛くないほど可愛がりました。お恥ずかしい話ながら、娘が中3まで一緒にお風呂に入っていたほど。意外に娘はあっけらかんとしてましたが、さすがにこっちがテレてしまい、中学に入ってからは必死にタオルで前を隠していましたけれど。
そんな娘に恋人ができてしまったのは、高3の夏休みです。何気なく、娘が図書館で借りてきた本を開いたら便箋が入ってたんです。当時は娘にケータイを与えてなかったので、付け文みたいな形で恋人とやりとりをしていたんですね。
『痛くなかった? あの日のことは一生の思い出にする サトシ』
これを見た瞬間、眼の前が真っ暗になり、生きる気力すらなくなりました。泥棒に、世の中で一番大切なものを盗まれた感覚です。オムツを替えてあげたことや一緒に公園で遊んだ休日、中学受験の合格発表……娘との18年間が走馬灯のように浮かんでは消えていきました。
でも、娘にサトシのことを尋ねるのはもちろん、妻にもいえませんでした。ただし、娘の手帳を無断で調べ、サトシの本名と住所は見つけ出しました。何かあったら絶対に許さん、という思いがありましたね」
※週刊ポスト2012年7月20・27日号