昨年のグラミー賞で6冠に輝いたイギリスの歌手・アデル(24才)が日本のドラマの主題歌に起用され、さらに注目を集めている。『セット・ファイア・トゥ・ザ・レイン』が7月10日スタートした武井咲主演のドラマ『息もできない夏』(フジテレビ系)のオープニング曲に採用され、『サムワン・ライク・ユー』も劇中歌としても使用されている。昨年にはリリースしたアルバム『21』の全世界セールスが2000万枚を突破したアデルだが、ここに来てまた注目を集める理由はどこにあるのだろうか? 音楽評論家の富澤一誠氏に聞いた。
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アデルといえば“スモーキーボイス”と称されるハスキーボイスを生かした圧倒的な歌唱力が持ち味です。派手なパフォーマンスはありませんが、歌唱力を生かした音楽性で、耳の肥えた大人の音楽ファンの支持を集めています。
対極にあるのがレディー・ガガです。彼女の場合は歌唱力が注目されるよりも先に、むしろ過激なパフォーマンスや奇抜な衣装で人気を集めていった。パフォーマンス力のガガに対して、ボーカル力のアデルということがいえると思います。
ふたりは、レコード会社も対照的です。ガガが、世界4大メジャーレーベルのユニバーサル・ミュージック所属であるのに対し、アデルはインディーズのレコード会社・XLレコーディングス所属。こうしたことからも、アデルがレコード会社のプロモーションの力ではなく、音楽性で評価されているということがわかります。
歌詞に関しては、王道のラブソングといえますね。愛する人への思いや切ない気持ちを、等身大のメッセージでストレートに表現している。曲もサウンドで新しさをつけることはなく、そんなに凝りすぎているわけではいない。だから、誰にとっても聞きやすいわかりやすい曲調に仕上がっています。
大ヒットした『Rolling in the Deep』をはじめアデルは失恋ソングが代表的ですが、一般的にラブソングで売れるのは失恋ソング、ティアーズソングといわれています。失恋ソングを聞くことによって、我慢していた気持ちがあふれ出していく。感情が表に出ることで、心が浄化されていくんです。そんな要素が、失恋ソングにはあります。こうしたこともアデルが支持を集める理由のひとつでしょう。
時代背景もあると思います。世界的に戦争や大災害が増えていったり、経済危機が起こったりしていて、人々の心は疲弊してしまっている。それをアデルのような、悲しくて切ない気持ちを表現した曲を聞くことで、心を浄化したいと無意識的に考える人が多いのでしょう。こういう時代だからこそ、アデルが求められているといえますね。