北朝鮮の大使館ともいわれる建物が今、人手に渡ろうとしている。在日朝鮮人の団体、朝鮮総連の約627億円に及ぶ債権回収を進める整理回収機構(RCC)は7月10日、「朝鮮総連中央本部ビル」の競売を東京地裁に申し立てた。だが、これは序章に過ぎない。巨額債権を持つRCCは今後も債権回収のため、朝鮮総連の施設を競売していくとされる。その実態を示す資料を本誌は独占入手した。
ここに〈取り扱い注意〉と記された1枚の紙がある。
紙には学校法人宮城朝鮮学園、学校法人京都朝鮮学園、学校法人福岡朝鮮学園など、全国の朝鮮学校を運営する8つの学校法人が列挙され、法人名の後にはそれぞれの債務額が記されている。この資料はRCCが今後回収作業を進める朝鮮総連の不良債権――そこから朝鮮学校に焦点を絞った「債務リスト」である。公安関係者から本誌が独占入手した。2億円、 5億円、10億円……中には41億円と莫大な債務額が付された学校法人もあった。
公安関係者が解説する。
「これらは全国の朝銀信用組合(朝銀)が破綻してRCCが不良債権を引き継ぐことになった債務額ですね」
朝銀とは、朝鮮総連の財政基盤である金融機関だ。朝銀のルーツとなる同和信用組合が設立されたのは1952年。ピーク時は全国38信組に達し、日本の金融機関から融資を得られない在日朝鮮人にとって、長らく頼みの綱とされてきた。
だが、バブル崩壊に伴う不良債権の増加により1997年以降、次々と破綻。預金者保護のため、1兆円を超える公的資金が投入される事態に陥った。背景には朝鮮総連から無理な融資を半ば強制的に迫られてきたこともあったという。公安関係者が続けた。
「破綻した信組から引き継いだ不良債権のうち、約627億円は事実上総連への融資です。大半は、他人名義や架空名義を使って融資が行なわれていました。その担保として朝鮮総連の支部や学校などの土地が差し出されていたのです」
資料に記された学校法人の債務額は約80億円。これらの数値には「(朝銀破綻時の)02年当時の額」との但し書きも付されているが、「多くの学校法人で債務返済が滞っています。だから現在も同程度の債務が残る」と公安関係者は見る。
債務返済状況について、RCCに取材を申し込んだが「金融機関としての守秘義務がある」として回答は得られなかった。
だがRCC関係者によれば「全国10校以上の朝鮮学校の校地や校舎を、RCCは仮差し押さえ登記している。既に返済を断念した学校法人も多い」という。本誌取材でも、周辺取材や不動産登記から各学校法人の債務を確認できた。
組織を支えるのは人と金だ。朝銀が破綻した現在では「人材を育てることができる朝鮮学校は朝鮮総連にとって最後の砦」(総連関係者)という。もし失うことになったら、朝鮮総連は大きな打撃を被ることになる。
※週刊ポスト2012年8月3日号