ライフ

「幼児期の体罰が社会的協調性を発達させ得る」と脳科学者

 幕末の志士たちに大きな影響を与えた吉田松陰。10才で兵学書『武教全書』を藩主の前で講義するなど、知能指数(IQ)が高かったといわれている。そんな吉田松陰について、『ホンマでっか!?TV』でお馴染みの脳科学者・澤口俊之氏が、脳科学的観点から分析する。

 * * *
 松陰は、長州藩士・杉百合之助の次男として誕生し、6才のとき、叔父で兵学師範である吉田大助の養子となりました。その後、養父が他界したため、同じく叔父の玉木文之進が創立した松下村塾で教育を受けました。そこで受けた教育は、彼の実母が「いっそ死んでしまったほうがこの子は幸せ」と嘆くほど厳しく、し烈を極めたといいます。体罰の嵐ともいえる幼児教育だったそうですが、この逸話がいまでも語り継がれているのは、その「し烈な幼児教育」が特筆すべきことであり、当時でも珍しかったことを示唆しています。

 さて、知能の遺伝的影響は、幼少期では比較的小さいことがわかっています。つまりその時期は、高い知能を遺伝的に持っていない子供でも、適切な方法で教育を受ければ、知能を向上させることが充分に可能だということです。

 ですから、叔父・玉木文之進による幼少期のし烈な教育で松陰の脳が多くの刺激を受け、知能が幼いうちに向上したことは想像に難くありません。ただし、これだけなら、単に「頭のいい人物」にすぎません。

 もっと注目したいのは、実は、「体罰を伴った教育」という点です。脳には「痛み神経回路」という回路があり、「体の痛みが心の痛みになり、共感・社会的協調性につながる」仕組みがあります。そのため、幼児期の体罰が痛み神経回路を介して社会的協調性や共感性などを発達させ得ることは充分に想定できることです。もちろん、いきすぎた体罰は児童虐待となり、脳を萎縮させることがあるほど酷い所業です。

 ところが、体の痛みなくして心の痛みの回路は発達せず、心の痛みなくして協調性や同情・共感の回路も発達しません。幼児期には「社会的関係における体の痛み」をそれなりに体験したほうがいいのです。昔は子供同士のけんかなどでそれを体験しましたが、いまの子供はそれも充分にできる環境にありません。その影響については別の機会に改めてお話ししたいと思います。

 虐待に近い過酷な教育を受けたのに脳の発達に悪影響がなかった松陰は、体罰を伴った厳しい幼児教育に耐えられる性質を遺伝的(MAOA遺伝子型という)に持っていた可能性があります。それでし烈な幼児教育に耐えられたうえ、痛み神経回路が発達したのではないでしょうか。

 かくして吉田松陰の社会的協調性が発達し、「特殊脳」ではないのに、歴史に残る人物としていまに語り継がれる存在になったのだと思います。

※女性セブン2012年8月9日号

関連記事

トピックス

中居正広氏と報告書に記載のあったホテルの「間取り」
中居正広氏と「タレントU」が女性アナらと4人で過ごした“38万円スイートルーム”は「男女2人きりになりやすいチョイス」
NEWSポストセブン
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波も(マツコ・デラックス/時事通信フォト)
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波、バカリズム脚本ドラマ『ホットスポット』配信&DVDへの影響はあるのか 日本テレビは「様々なご意見を頂戴しています」と回答
週刊ポスト
大谷翔平が新型バットを握る日はあるのか(Getty Images)
「MLBを破壊する」新型“魚雷バット”で最も恩恵を受けるのは中距離バッター 大谷翔平は“超長尺バット”で独自路線を貫くかどうかの分かれ道
週刊ポスト
もし石破政権が「衆参W(ダブル)選挙」に打って出たら…(時事通信フォト)
永田町で囁かれる7月の「衆参ダブル選挙」 参院選詳細シミュレーションでは自公惨敗で参院過半数割れの可能性、国民民主大躍進で与野党逆転へ
週刊ポスト
約6年ぶりに開催された宮中晩餐会に参加された愛子さま(時事通信)
《ティアラ着用せず》愛子さま、初めての宮中晩餐会を海外一部メディアが「物足りない初舞台」と指摘した理由
NEWSポストセブン
「フォートナイト」世界大会出場を目指すYouTuber・Tarou(本人Xより)
小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」に批判の声も…筑駒→東大出身の父親が考える「息子の将来設計」
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《妊娠中の真美子さんがスイートルーム室内で観戦》大谷翔平、特別な日に「奇跡のサヨナラHR」で感情爆発 妻のために用意していた「特別契約」の内容
NEWSポストセブン
米国からエルサルバドルに送還されたベネズエラのギャング組織のメンバーら(AFP PHOTO / EL SALVADOR'S PRESIDENCY PRESS OFFICE)
“世界最恐の刑務所”に移送された“後ろ手拘束・丸刈り”の凶悪ギャング「刑務所を制圧しプールやナイトクラブを設営」した荒くれ者たち《エルサルバドル大統領の強権的な治安対策》
NEWSポストセブン
沖縄・旭琉會の挨拶を受けた司忍組長
《雨に濡れた司忍組長》極秘外交に臨む六代目山口組 沖縄・旭琉會との会談で見せていた笑顔 分裂抗争は“風雲急を告げる”事態に
NEWSポストセブン
中居正広氏とフジテレビ社屋(時事通信フォト)
【被害女性Aさん フジ問題で独占告白】「理不尽な思いをしている方がたくさん…」彼女はいま何を思い、何を求めるのか
週刊ポスト
食道がんであることを公表した石橋貴明、元妻の鈴木保奈美は沈黙を貫いている(左/Instagramより)
《食道がん公表のとんねるず・石橋貴明(63)》社長と所属女優として沈黙貫く元妻の鈴木保奈美との距離感、長女との確執乗り越え…「初孫抱いて見せていた笑顔」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 中居トラブル被害女性がフジに悲痛告白ほか
「週刊ポスト」本日発売! 中居トラブル被害女性がフジに悲痛告白ほか
NEWSポストセブン