この不況下、手頃な値段で美味しいものを食べさせてくれる店は増えている。だが、この店の価格破壊は尋常ではないと評判である。
“立ち飲み”スタイルのレストラン、「俺のフレンチ」の3号店が7月17日に恵比寿にオープンするやいなや、連日満員御礼の人気を博している。経営はブックオフコーポレーションの創業者、坂本孝社長が立ち上げたバリュークリエイト。同じ立ち飲みの業態で「俺のイタリアン」を都内で5店舗、今年5月に「俺のフレンチ」を銀座と神楽坂にオープンした。
人気の秘密は、「高級」フレンチを「低価格」で食べさせてくれること。恵比寿店にはシェフたちのポートレートが高々と掲げられ、プロフィールには、シェ松尾、ジョエル・ロブション、クレッセント――都内でも有数のグランメゾンの名が並ぶ。三ツ星をはじめとする超有名店からシェフを引き抜いてきて、本格フレンチを提供しているのだ。そして驚きの価格。
メニューの一例をあげよう(7月25日)。
・人参のムースのキャラメリゼ:480円
・フォワグラと白レバーのパテ:580円
・滑らかなトリュフのポレンタ 温玉添え:680円
・牛ヒレとフォアグラのロッシーニ:1280円
・オマールのカダイフ包み揚げ そのみそのタルタルソース:1280円
フォアグラ、トリュフといった高級食材を使った料理を1500円以下で提供する。量も十分で、一皿2~3名でシェアしてちょうどよい程度。通常、フレンチレストランの原価率は30%以下だというが、「俺のフレンチ」では客を満足させるために、坂本社長は「45%」以上かけるよう指示しているという。
都内のレストラン事情に詳しい飲食店コンサルタントが指摘する。
「立ち飲みということもあって、一日3~4回転しています。平均客単価は3000円ですが、客の回転数を高めることで、質と低価格を両立しているようです」
恵比寿店には一部、着席型の席があり、ここは予約が可能。だが、元お笑い芸人という店長によると、2時間の時間制だという。
尋常ではない価格破壊の秘密はそれだけではない。
「新店舗は居抜き物件を利用することで、出店コストを下げています。内装にもそれほどコストをかけず、その分、食材の原価率を上げる。それからメニュー数も厳選する(恵比寿店では25品)。徹底して料理の味で勝負しようとしています」(同コンサルタント)
記者が訪れたのは平日の夜10時過ぎ。店の外まで客が溢れ、どのテーブルにも所狭しと皿とグラスが並んでいた。料理は高級だが、箸が用意されているなど、店の雰囲気はカジュアル。それほど広くない厨房で働くシェフらとの距離も近い。
恵比寿店の料理長・飯田夢崇氏は、ジョエル・ロブションの出身。銀座店の料理長はシェ松尾・松涛レストランの元総料理長・能勢和秀氏。それにしてもこんな三ツ星シェフらをなぜ「俺のフレンチ」に集められるのか。業界紙記者はこう解説する。
「料理の世界は、ナンバー1がすべて。腕を磨いたナンバー2ほど、自分の料理を作りたくても作れず、くすぶっていることが多い。『俺のフレンチ』は、そんなナンバー2の苦境に目を付けて、彼らがクリエイティビティを発揮できる場を比較的ローコストで与えたと言えます。彼らにしてみれば、ここで名前を売ることができれば将来が開ける。よく練られたビジネスモデルだと思います」