高速水着問題に揺れた2008年北京五輪で、スピード社の水着を着て男子200mバタフライで銅メダルを獲得したロンドン五輪競泳日本代表・「トビウオジャパン」主将の松田丈志(28)だが、この4年間、周囲の状況に翻弄され続けた。2008年末には所属していたミズノとの契約が満了。直後にレオパレス21と契約したが、金融危機による同社の業績悪化によってたった1年で契約が終了し、久世由美子コーチとスポンサー探しに奔走することになった。
「当時、松田選手はスポンサー支援を依頼する手紙を約500社にも出したといいますが、そのうちの1社が弊社でした」
と語るのは、現在の所属先であるコスモス薬品の経営企画部・柴田太氏。九州を中心に457店のドラッグストアを展開する同社は、宇野正晃社長が松田と同じ宮崎県延岡市の出身で、約10年前まで本社も延岡にあった。だが、スポーツ支援の経験はなく、毎週の商品チラシ以外に広告宣伝費は使わない方針。企業規模から考えてもすぐに両手を挙げて応援とはいかなかった。
「縁あって何度か連絡を取るうちに“まだスポンサーが決まっていない。毎年恒例の7月の高地トレーニングも、今年は資金不足で行けなかった。このままだと引退もやむを得ない”という切実な話を聞きましてね。そういう事情なら私たちが支援しましょうと申し出たんです」(柴田氏)
松田と久世コーチの年間の活動費のほかに、海外遠征に持って行く食品や飲料などを提供する。契約には何の条件もつけていないが、松田は大会後に必ず同社を訪れてメダル報告をしてくれるのだという。
「契約してからの彼の活躍が目覚ましいので、社員にとってはいい刺激になります。7月末までメーカーさんとの協賛で松田選手の応援キャンペーンもやっているんですが、通常の販促企画の1.5~2倍の反響があるんですよ」(同前)
コスモス薬品以外にも宮崎県内の企業12社でつくる応援スポンサー会が2010年12月に発足し、松田の活動を支えている。
※週刊ポスト2012年8月3日号