娘が処女を奪われたその時――世の父親にとっては最大級の衝撃を受ける日ともいえよう。
〈お父さんと結婚するのが夢です〉――クレヨンで描かれた父親の絵の下には、筆圧の強い拙い字でそう書かれていた。ゼネコン会社に勤めるFさん(48)は、20年前、幼稚園に通っていた娘からプレゼントされた絵を今でも大切にしまっている。
「うちには娘が2人いたけど下の娘はお父さんっ子。大学生になっても茶目っ気たっぷりに私と腕を組んで外出するようなこともある。この娘だけは誰にも渡したくない、一生独身でもいい、と強く思っていた」
そんな娘が彼氏を紹介したいと言い出したのは大学2年の頃だ。青天の霹靂だった。それまで男の影もなく、処女と確信していた。さらに当日、Fさんは我が眼を疑った。
「私と5歳ぐらいしか年が違わないオッサンが玄関にたっていたんです。腹は出てるし髭も蓄えている。娘より25歳も上の年の差カップルですよ。『お父さん、初めまして』って。オッサンに『お父さん』っていわれても、何がなんだかわかりませんでしたね」
後で妻に聞けば娘のバイト先のパン屋のオーナー。さらにこの男こそ初体験の相手で、既に妊娠もしているという。Fさんが嘆く。
「どことなく似ているんですよ、私に。そそっかしいところとか、口ベタなところとか。しかし、お父さんっ子が高じてオッサンを選ぶとは……。反対はしたかったけど、それをすると自分まで否定することになりそうで。結局、娘は大学を辞めて今はパン屋の女将さんとして働いています。娘の前では父親とは無力なものですよ」
※週刊ポスト2012年8月3日号