打ち水で気温下がった
日本ってこんな国だったっけ、と思ってしまうような連日の暑さ。それでも、先人に学ぶところはある。作家で五感生活研究所の山下柚実氏が「大都会で打ち水」体験をレポートする。
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大震災と原発事故を経て、原発再稼働問題を抱えた今年の猛暑。日本全国で「節電方法」にこれほど注目が集まったのは、史上初めてでは。
では、1000人の人間がずらりと揃って、日本で一番エネルギーを使う場所、東京駅の前で水を撒いたらいったいどうなる? まち丸ごとの大実験が実施されると聞いて、さっそく現場へ。
7月27日は猛暑日。東京駅前の丸の内・大手町・有楽町に広がる「大丸有」エリアの温度計も、昼間は35度近くまで上昇しました。夕方、東京駅前と皇居をつなぐ巨大な目抜き通り「行幸通り」に浴衣姿の老若男女が続々と集まってきました。
1000名近くの人による打ち水大作戦「行幸通り浴衣de打ち水」(主催 大手町・丸の内・有楽町 打ち水プロジェクト実行委員会)の始まりです。
日本の古来の生活の知恵「打ち水」。道や庭先などに水を撒いて温度を下げる、究極のアナログ節電法。古風などと、ナメてはいけません。水しぶきが涼しげ、といった精神的な効果にとどまらず、水が蒸発する際に大気中の熱を奪う効果で体感温度が「1.5~2度」くらい下がる、という科学的裏付けもあるとか。
本当かいな?
この猛暑日、コンクリートジャングル東京のど真ん中で、もし「2度」も下がったらかなり爽快なはず。でもこればかりは、説明を聞いただけではピンとこない。この身体で実感してみなければ、わかんない。
午後5時半を回った頃、いよいよ「打ち水」が始まりました。
ずらりと並んだ浴衣の人々が、ひしゃくを手にとり水を撒く。飛沫が飛び散り、歓声があがる。昼間の灼熱の太陽に暖められた大都会は、みるみるうちに濡れていき、その上をさあっと夕方の風がぬけると……。
すっと爽やかな空気が生まれました。
籠もっていた都会の熱が、どんどん奪い去られていく。あー気持ちいい。主催者の測定では、打ち水前に「31.6℃」あった温度が、打ち水後は「30.2℃」に変化。たしかに「1.4℃低下した」結果が出たのでした。
「打ち水は、五感を使って温度の変化を察知する『感測』なんです」とウェザーニュースお天気キャスターの澤田南さん。
「私の出身地ニューヨークでは聞いたことのない方法だけど、すばらしい知恵デスネー」と、丸の内の外資系企業に勤める黒人女性。
「楽しかった。おうちでもやりたい」と小学生の女の子。
でも一つだけ要注意!
朝夕の打ち水は、暑さを緩和させる効果があるものの、昼間に大規模な打ち水をしても逆効果なんですって。知ってました?
水蒸気が拡散できないために、湿度の上昇の方が気温の下降よりも数値が高くなってしまう(産業技術総合研究所の実験から)せいだとか。気をつけましょう!
さて、今回「感測」できなかった方も、まだ間に合います。
7月27日~8月31日の間の夕方、丸の内仲通り周辺の93のショップや施設では、路面に打ち水をして涼感とともにお客を迎える「打ち水weeks 2012」を展開します。「感測」希望者はぜひ、夕方の「大丸有」エリアへ。
できるだけ暑い日こそ、その効果が体感できるはずです。